音楽が好きな人であれば誰にでも、初めて聴いた時の瞬間を憶えている音楽が幾つかはあるものです。その音楽を聴けば、その時の情景や匂いや季節や自分の気持ちまでもが鮮やかに蘇ってくるのです。もちろん、音楽の好みなど十人十色ですから人ぞれぞれです。それでも、そんな音楽って確かにありますよね。

【パット・メセニー「アメリカン・ガレージ」】<br />その瞬間に、緑の草原に一陣の風が吹いて……

 と、いうわけで、今週の音盤はパット・メセニー・グループ「アメリカン・ガレージ」 (写真)です。

「アメリカン・ガレージ」は、1979年6月に米国東海岸のマサチューセッツ州ブルックフィールドで録音されました。もう34年も前ということになります。が、決して古臭くないどころか、今でもその響きは清新そのものです。特に、冒頭の“(アクロス・ザ)ハートランド”のイントロは、シンセサイザーとギター、そしてベースが16分音符で奏でるGの分散和音が、時代の閉塞感を打ち破り、此処に新たな音楽が始まると宣言しています。緑の草原に一陣の風が吹いて雲を吹き飛ばし陽光が差すような感じでしょうか。初めて耳にした時の爽やかな印象を憶えている人もきっと多いでしょう。

 この音盤は、パット・メセニーにとって初めてグラミー賞のベスト・ジャズ・パフォーマンス部門にノミネートされたものです。その後、今に至るまで圧倒的に多数の傑作・問題作を発表し続けてグラミーの超常連となりますが、この音盤こそ、その嚆矢となったのです。