組織の意思決定に「真善美」の3ステップが効く理由

組織にとって、いかにメンバーから意見を吸い上げ、よりよい意思決定を下すかは生命線とも言える重要事項だ。しかし、多くの組織では「ルール」を設計することばかりに注力し、結果としてメンバーをスポイルしてしまっている――。
そう語るのは、「ホワイト企業大賞」大賞を受賞するなど「働きやすさ」で高い評価を受けるGCストーリー株式会社・代表取締役社長の西坂勇人氏だ。初の著書『強い組織ほど正解を捨てる』を上梓したばかりの西坂氏が、「組織の意思決定」を磨くにはどうすればよいかを語った。

組織を蝕む「ルール至上主義」の2つの問題

 組織というものは、もともとは考えも趣向もバラバラの個人が集まってできています。当然、全員がまったく同じ考え方をするということはあり得ず、経営者やリーダーにとっては、このバラバラの意思を1つにまとめ上げ、決断していくことは大きな課題となります。

 その際、「ルールをいかに設計するか」ばかり議論されがちですが、ここには1つ落とし穴が存在します。

 それは、意思決定のルール化が進むと、人は「思考停止」に陥る、ということです。

 たとえば、「遅刻はしてはいけない」ということをルールとして掲げたとします。

 すると人は、「なぜ遅刻してはいけないか?」を考えなくなります。そのルールが設計された背景を考える「余力」を失い、結果、「いかにごまかすか?」という浅い考えに支配されます。皆さんも、学生の頃に課された意味不明なルールをごまかした経験があるのではないでしょうか?

 また、ルール化された組織の意思決定では、多数決や「決まりだから」という視点でマイノリティの意見は無視されがちです。結果、諦めが蔓延したり、対立を対立のまま放置したりする文化が生まれてしまいます。こうなれば、意思決定を磨くどころか、組織のエンゲージメントはどんどん低下し、負のスパイラルに陥ります。

 考える余力を残すためにも、多様なメンバーの意見を受け入れるためにも、自由とルールのバランスを取ることが、組織の意思決定のあり方を設計していくうえで重要となるのです。

よりよい意思決定は「真善美」の3ステップから生まれる

 では、どのようにして、多様な人の集まりである組織の中で、そのバランスを取ればいいのか。

 ここでヒントになるのが、「真善美」という言葉です。人間の理想的な3つの価値基準を指す言葉であり、私なりに解釈すれば、「人が求めてやまないことであり、自分の心の根っこにある一番の本質」と言えます。盛和塾に通っている頃、稲盛和夫さんも人間の本質として語っていました。

 この真善美を、組織の意思決定の基準として使うのです。

 たとえば、「ある人間を責任者に抜擢する」という意思決定について検討していたとしましょう。それを、真善美の3つのステップで検討していくと、以下のようになります。

:その人物の実力は組織のために役立つか?

:その人物が責任者になることは、部下にとって、同僚、顧客にとって善きことか?

:その人物が責任者になることは、真と善を兼ね備え、美しいと感じる判断か? その意思決定にワクワクするか?

 このような問いを前提に深く対話することで、成熟した議論ができ、よりよい意思決定へとつながります。しかも、こうした対話は個人の成熟も促進するので、より自律的な人材へと成長していき、ルールと自由のバランスが取りやすくなっていきます。

 私が理事を務める東北の起業家団体EO North Japanでは、実際にこの真善美を団体の重要な意思決定の指針として掲げ、それぞれのメンバーが自社で実践し、大きな成果をあげています。

 意思決定によって組織は決まります。

 その基準に、真善美をすえることで、成熟した意思決定のできる組織へと成長していくことができるのです。

(本論は、2022年5月20日に開催されたEO North Japan主催イベントでの西坂氏の発言を再編集したものです)