リモートワークでの「自問」習慣が、自分自身とチームを成長させていく理由

内閣府の調査では、コロナ禍におけるテレワークのデメリットとして「気軽な相談・報告が困難になった」という就業者が目立っている。自室において、ひとりで仕事に向き合っていれば、「何のために働いているのか?」「どうしてこんなに忙しいのか?」と「自問」することもあるだろう。新入社員研修や管理職対象のリーダーシップ研修などで、さまざまな悩みやリアルな声を聞いている、講師ビジョン株式会社・代表取締役の島村公俊さんは、そうした「自問」こそが自分自身と組織(チーム)を成長させていくと説く。(フリーライター 棚澤明子、ダイヤモンド社 人材開発編集部)

「自分に問う力」を身につけることの意味と目的

 対面で仕事をしていれば、上司や同僚から問いかけられたり、周囲の言動から自分自身を顧みたりすることで、否応なく自分と向き合わざるを得ない機会が生じるものだ。しかし、ひとりきりでリモートワーク を続けていると、他者の目にさらされる機会が激減し、自ずと他者視点で自身の内面と向き合う機会も減ってしまう。そうした状況が長引くと、初めはリモートワークで楽に感じる部分もあったはずだが、周囲との直接的な接点が持てないため、徐々に自身をポジティブな状態に保つことが難しくなってくる。目の前のタスクを淡々と片づけてさえいれば業務は進んでいくが、想像以上の仕事のプレッシャーがかかった状況などでは、いままでの対面環境のように適切なサポートも受けづらい。置き去りにされた心はネガティブに傾きやすく、大きな衝撃を受けたときにリカバリーする力も養われにくい。仲間の顔が見えないだけに、ネガティブな気持ちになると、「上司も忙しいに違いない」「同僚だって、声をかけられるのは迷惑に違いない」などと思い込み、SOSの発信すらできなくなる可能性もある――誰にとっても言えることだが、とりわけ、仕事そのものに不慣れな若手社員にとっては、リモートワークは成長の機会をつかみにくい環境になる。また、ビジネスパーソンとしてのビジョンやパーパスも育ちにくいという懸念が生じるだろう。“リモート環境下”では、会社のために、仲間のために、という前向きな気持ちをどのように醸成するかが問われている。

* 本稿では、「テレワーク」「リモート勤務」と同義。

島村 新入社員や入社2〜3年目で、上司や同僚と深い繋がりを感じられないままリモート勤務に入った若手社員には、会社やチームに対して貢献意欲が湧かなかったり、メンタル不調を訴える方が徐々に増えています。私は、研修などでリモートワーク中心の若手社員に接する機会が多いのですが、ひとりの環境がずっと続くとネガティブな心境になりやすいようです。また、そのような状況の中で、自分自身としっかりと向き合うのが苦手な方も増えてきていると感じます。特に20代前半の若手社員の皆さんは、インターネット上で効率よく情報を検索したり、シェアしたりすることには非常に長けていますが、一方で、困難な状況下に置かれた際に自分の内面と適切に向き合う力は弱い傾向にあります。コロナ禍のこうした厳しい環境下で、新入社員や若手社員は、より早期に自分の力で状況を打開し、一人前になることが求められている、という現状です。

 コミュニケーションが閉ざされがちなリモートワークが続くと、モヤモヤとした心の葛藤を持てあますようになりやすい。対面できる職場であれば、上司や同僚が様子の変化に気づいて声をかけることもあり得るが、リモート環境下では自分から発信しない限り、なかなか気づいてもらえないだろう。ネガティブな葛藤を抱え続ければ、メンタル不調を招くだけでなく、チーム(組織)に対して適切な発信もできなくなってしまう。また、葛藤だけでなく、「本当はもっと成長の機会がほしい」「職場のいろいろな人ともっと知り合いたい」といったポジティブな気持ちも同じように存在する。本人が、自分の中にある葛藤や前向きな気持ちをキャッチして発信すれば成長のチャンスに繋がる可能性はあるが、モヤモヤしたまま放置してしまえば成長の芽も萎んでしまいかねない。ネガティブ、ポジティブいずれの気持ちも、本人がキャッチせずに流してしまうことは、組織にとってデメリットしかないだろう。この“モヤモヤとした葛藤”を適切にすくいあげ、成長の糧にしていく力を身につけるために島村さんが勧めているのが「自分に問う力」を身につけること、そして、「自分に問うことを習慣化すること」だ。

島村 自分に問う力を身につけることで、得られるものは2つあります。ひとつは、葛藤ゆえのイライラを解消するなど、心の状態を落ち着かせること。もうひとつは、「自分はこの仕事を通して何を成し遂げたいのか」「社会にどのようなインパクトを与えたいのか」などのビジョンや「自身の存在意義は何か」というパーパスといったビジネスパーソンとしての“幹”、つまり、価値観を育てることです。自分に問うことが適切にできると心が安定し、思考がよりポジティブになりやすく、結果として未来へ向けて深く考えられるようになります。深く考えられるからこそ、周囲に対しても、なぜそのことをやりたいのか、なぜ困っているのか、などを明確に発信することができるようになります。ですから、自らに問いかけて考え抜いた結果をチームに向けて発信することが肝要です。リモートワーク環境下でコミュニケーションが断絶されがちないまだからこそ、業務上の提案でも、キャリアへの展望でも、困った際のSOSでも、思考を整理して他者に向けて発信することで、互いに繋がりをつくっていくことが大切なのです。その起点となるのが「自問」だと考えています。

リモートワークでの「自問」習慣が、自分自身とチームを成長させていく理由

島村公俊 (しまむらきみとし)

講師ビジョン株式会社 代表取締役

教育研修会社等を経て、ソフトバンク株式会社(旧ボーダフォン)に入社。ソフトバンクユニバーシティ立ち上げ時の「研修の内製化」をリードし、100名を超える社内講師陣の育成に貢献。2014年、日本HRチャレンジ大賞人材育成部門優秀賞をはじめ、米国教育機関からも表彰される。2015年、講師ビジョン株式会社を設立し、独立。研修の内製化支援、OJTトレーナー研修、リーダーシップ研修を中心にビジネスを展開している。早稲田大学非常勤講師、ダイヤモンド社「研修開発ラボ」講師も務める。
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