銀行・証券・信託 リテール営業の新序列#5Photo by Yoshihisa Wada

野村ホールディングスが創業100周年の節目に銀行ビジネスへ本格参戦した。奥田健太郎社長は、証券会社という自らの「殻」をも壊し、「次のステージ」へ向かう決意を明かす。その野望の先に何があるのか。特集『銀行・証券・信託 リテール営業の新序列』の#5で、野村が描く戦略の全貌に迫る。(聞き手/ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

メガバンクの物量作戦にどう対抗?
独立系証券最大手の野村が描く戦略とは

――三井住友フィナンシャルグループの「Olive(オリーブ)」や三菱UFJフィナンシャル・グループの「エムット」など、メガバンクが個人向けサービスを強化していますが、野村ホールディングスはどのように戦っていくのですか。

 ウェルス・マネジメントのお客さまに対するわれわれのアプローチの仕方は、2019年からずっと今の流れに向けて動かしてきています。もともとは1人の担当者がたくさんのお客さまを担当していたのですが、年齢や投資の経験、資産のサイズなどによってニーズが違う。人かデジタルか、あるいは両方かをお客さまに選んでいただき、ニーズごとに領域を分けるアプローチをやってきています。

 われわれは商業銀行ではないので、決済や送金といった手続きはありません。ですからお客さまの運用資産、財産をどう安全に次の世代に伝えていくかというテーマは明確であり、そのテーマに合わせた体制づくりに何年もかけてきました。

 ポイントは、主力である富裕層のニーズをしっかりと受け取り、そこにどうお応えするか。野村はここに100年間アプローチし続けて仕事をしてきました。その経験を踏まえて担当者の質を上げるために投資をし、その成果が表れています。

 私が社長になって丸5年ですが、就任当初から言っているのが「パブリックからプライベートへ」です。プライベートアセットなどの商品をお客さまが選び、ポートフォリオの中身を増やせる取り組みは、野村が他社に先駆けて進めてきました。

 プライベートの商品はリスクもあるのでインターネットだけでは販売できない。しっかりとリスクを説明し、納得してもらった上で投資をしていただくモデルにしています。

 もう一つ、野村の強さはホールセール(法人向け)とウェルス・マネジメントの両方にあり、ここをつなげていく。「ワークプレイス(職域)」と呼んでいますが、われわれは上場会社の従業員持ち株会の口座数シェアが55%あります。

 このお客さまは富裕層だったり富裕層の予備軍だったりする。ここにアプリでアプローチしていく。実際、そこからの新規口座開設や投資が増えています。この領域で磨きをかけていく。

――しかしメガバンクは巨大な資本とネットワークを使い、証券ビジネスの領域に侵食しているように見えます。そこに脅威は感じていませんか。

「人材の質」「プライベート戦略」「ワークプレイス」。野村が磨き上げてきたこれらの強みは、リテール決戦の様相を呈するメガバンクの攻勢を前に、有効な武器となり得るのか。次ページで奥田社長が、脅威を認めつつ、その先に見据える構想を語り始めた。