3月に『起業家の思考法 「別解力」で圧倒的成果を生む問題発見・解決・実践の技法』を出版した株式会社じげん代表取締役社長の平尾丈氏。25歳で社長、30歳でマザーズ上場、35歳で東証一部へ上場し、創業以来12期連続で増収増益を達成した気鋭の起業家だ。
そんな平尾氏が「起業家があこがれる起業家」と呼ぶのが株式会社LayerX代表取締役CEOの福島良典氏。東京大学大学院に在学中の2012年にGunosyを起業。創業から2年半でマザーズ上場を果たす。2016年にはForbes Asiaよりアジアを代表する「30歳未満」に選出。2018年には「すべての経済活動を、デジタル化する。」というミッションのもと、2度目の起業としてLayerXを設立している。
不確実性が高く、前例や正攻法に頼れない時代。そのなかで圧倒的な成果を出しているおふたりに「起業家の思考法」について語っていただいた。
連載第3回は、自分のやりたいことを実現するために大切なことについて、起業家の説得術を教えてもらった。
(構成 林拓馬)
自分のやりたいことと、社会の接点をつくる
――福島さんのご著書『センスのいらない経営』にもありましたが、ビジネスパーソンが「自分のやりたいことと、社会の接点を作る」にはどうすればいいですか?
福島良典(以下、福島):あの本で僕が言いたかったのは「顧客と向き合おう」ってことなんですよね。自分が欲しいとか「これいいね」って思ってるものをちゃんと作れたとき、その裏に同じようなニーズを抱えている人や会社がいるはずなんですよ。なので、そこが社会と自分のやりたいことの接地面になる。
でも、多くの人が苦しんでるのは、自分が気づいたそのニーズを上司、ないしはクライアントを説得したうえで証明しないといけないから。その過程で本当にニーズがあるものも、ニーズがないと勘違いされてしまうんですよ。
――上司は接点になってない。
福島:そうですね。上司に共感されないとか、クライアントにうまく伝わらないとか。そのとき、顧客に問いかけて、「これだけユーザーが集まっています。これだけの人がお金払います」とデータとして集めてしまう。それ以上の説得材料って無いはずなんですよ。上司を飛び越えてそれをやっちゃう人が、『起業家の思考法』的な働き方ができる人だと思うんですよね。それは説得のテクニックだと思います。
起業家って「上司がいない」と思われるのですが、むしろ最強の上司として投資家がいて、取締役会もあります。そこをこういうやり方で説得しているんですよ。公的なレポートが出している統計とか、「こういう市場規模がでてるレポートがあって」とかそういうのは説得材料としてあまり意味がありません。プロダクトを出して「このユーザー、こういう使い方してますよ」と説得している。
そして「こういう使い方をしてるってことは、これぐらいの収益が生まれる可能性があって、似てるユーザーでは、これぐらいのサイズ感がありますよね」と推論も立てる。それが、最近よくいわれるTAM(Total Addressable Market 実現可能な最大の市場規模)、SAM(Serviceable Addressable Market 実際にサービスを提供できる市場)、SOM(Serviceable & Obtainable Market 実際に獲得できる市場)の話だと思うんですけど。
データと推論をセットで持ってくと「じゃあ、それって投資する価値があるね」と説得できるんです。起業家の説得のロジックは、ビジネスパーソンの方の、「自分はやりたいんだけど共感されない」とか、「周りをどうしても動かせない」、「上司がなかなか理解してくれない」、そんなときにどう説得すればいいかという場合に当てはめられると思います。
僕らも「投資家が理解してくれない」とか、「取締役会や経営会議で自分の考えが否定される」とか、そんなのしょっちゅうです。逆のケースもあります。役員が「これをやろうと思ってるんだけど」と提案してきたときに、僕が「何で、何で」と聞きまくるとか。
そのときに、リテラシーとかスキルとして重要になのは「説得する力」です。「自分のやりたいことと社会の接地面を探す」というのは、データと推論を使った説得力だと思います。説得のスキルを身につけることは、ビジネスパーソンとしてとても大事だと思いますね。
LayerX代表取締役CEO
東京大学大学院工学系研究科卒。大学時代の専攻はコンピュータサイエンス、機械学習。2012年大学院在学中に株式会社Gunosyを創業、代表取締役に就任し、創業よりおよそ2年半で東証マザーズに上場。後に東証一部に市場変更。2018年にLayerXの代表取締役CEOに就任。