地域によって特徴がある
ドンペンの形態

 先ほど、ドンペンの形態は多様であると言ったが、地方の店舗には「ご当地キャラ」のような扱いのドンペンもいる。

 長野駅前店にはリンゴをたくさん持ったドンペン、岡山駅前店には桃太郎ドンペン、仙台駅西口本店には伊達政宗の格好をした伊達政宗ドンペン。東京であっても、池袋駅西口店のドンペンは「いけふくろう」でおなじみのフクロウと一緒にいたりする。

ドンキのマスコット「ドンペン」を巡る深すぎる考察、経営戦略まで象徴?ドン・キホーテ吉祥寺駅前の店頭 Photo by S.H.

 実は、店の品ぞろえや配置も、ドンキでは店によって違っている。中国にルーツを持つ人が多く住んでいる地域のドンキには、中華料理向けの食材が充実している。オタクの聖地、東京・秋葉原のドンキはコスプレグッズが豊富だ。

 ドンキからすると、各店舗が立地する地域社会は店の「外側」だ。しかし、店の「内側」の品ぞろえや配置には地域性が反映され、内と外の世界が渾然一体となっている。店の入り口ではドンペンが両者を結び付けるかのように、砂時計のようなポーズをしていることもある。

 他のチェーンストアを考えてもらいたい。看板も内装も、全国均一であることが多い。品ぞろえに若干地方色が出る場合もあるが、ドンキほど顕著ではないケースがほとんどだ。コンビニであれば、最大手のセブン-イレブンが良い例になる。あのオレンジ、緑、赤のストライブの看板は全国共通だ。

 コンビニ業界でドンキに近いのは業界2位のローソンではないだろうか。12年に刊行された、ローソンの元社長・新浪剛史氏の改革を追った書籍『個を動かす』(池田信太朗著、日経BP)によると、在任中の新浪氏は「個客」(一人ひとりの顧客)を重視し、均質性よりも多様性を指向した改革を行った。

 ローソンの多様性は、「ナチュラルローソン」や「ローソンストア100」といった異業態の店舗展開を見るだけでもよくわかる。新浪氏は全国のローソンを「高齢者の顧客が多い」「高校生が多い」など8パターンに分け、それぞれ品ぞろえなどに特徴を持たせたという。

 広島東洋カープの本拠地球場に隣接するローソンの看板が、同チェーン共通の青ではなく、カープのチームカラーである赤になっているのもよく知られている。ここでも地域社会という「外側」との一体化が行われているのだ。

『ドンキにはなぜペンギンがいるのか』では、全国チェーンのショッピングモールとドンキの比較も行われている。前者が「ユートピア」で、後者が「祭り」を指向しているのではないかと谷頭氏は分析する。一体どういうことか。

 谷頭氏は、『ショッピングモールから考える』(東浩紀・大山顕著、幻冬舎新書)で提示された「ショッピングモールの起源が砂漠のオアシスにあった」という仮説を引き、日常空間とはまったくの「異空間」を希求するユートピア願望が、ショッピングモールに投影されているのではないかと述べている。異空間であるためには、周囲から「隔離」されている必要がある。

 多くのショッピングモールは、扉が二重になっていたり、大きな自動ドアがあったりして、外側と内側がはっきりと分けられている。立地も商店街から少し離れた場所であることが多い。内部では季節に関係なく、快適にショッピングが楽しめるよう空調により温度管理がなされている。まさに、外界から隔離されたユートピアのようなのだ。

ドンキのマスコット「ドンペン」を巡る深すぎる考察、経営戦略まで象徴?ドン・キホーテ吉祥寺駅前店の水槽 Photo by S.H.

 一方、「祭り」については、多くの文化人類学者が、地域共同体において、そのつながりを強固なものにし、地域の絆を深めるものであったことを指摘している。民俗学者の柳田國男が説いた「ハレ」と「ケ」の区別で言えば、日常(ケ)の空間である地域社会の中にハレの異空間を作り上げるのが祭りだ。その意味で、祭りは、日常と非日常を隔離するのではなく、むしろ融和させるものといえる。

 ドンキは、店の入り口を開放している店舗が多く、外側と内側が明確には分かれていない。店内のごちゃごちゃした雰囲気は、まさに「祭り」そのものだ。ドンキが「祭り」を指向しているのも、「内側と外側の一体化」の表れなのだろう。

 ちなみに冒頭で触れたドンキの吉祥寺駅前店だが、その大きな特徴は、入り口に大きな水槽があり、熱帯魚などが泳いでいることだ。これは、井の頭公園にある自然文化園水生物館や池と関連しているのではないかと推測できる。