酒造りに食品の技術を融合。
村を幸せな未来へつなぐ上質な地酒
樹木の年輪のように成長を考え、社員の幸せを願う「年輪経営」で、48期連続増収増益の長野県伊那市の伊那食品工業。3万坪の敷地に「かんてんぱぱガーデン」や、食のセレクトショップ「モンテリイナ」を営み、年間40万人以上が訪れる。2014年に、上伊那郡中川村の米澤酒造の経営を引き継ぐ。村の風景と文化を残す使命感からだった。
社長の塚越英弘さんは、当初、老朽した蔵を見て愕然としたが、設備を変えると酒の味が変わるのではないかと不安に襲われた。
勉強先の蔵の杜氏に「とにかく蔵はきれいに」と教わり、寒天作りで培った食品技術で改革をスタート。麹室を新造し、瓶詰め機のパストライザーを導入。貯蔵の空調管理や衛生面を徹底し、食品技術を酒造りに融合させた。
すると、雑味ある野太い味が、澄んだ美しい酒へと大変化。全国新酒鑑評会をはじめ、フランスのKura Master 2021や英国のIWC SAKE部門などで金賞に輝いた。
米の主な産地は上伊那郡中川村と飯島町。特に棚田で育てた米の酒は、おたまじゃくしの名で愛される。グループ会社のぱぱな農園でも酒米栽培を開始し、精米所も新設と、莫大な設備投資を続けるが、「回収できる見込みは……」と塚越さんは苦笑い。
お客さまに楽しんでもらおうと直営店は試飲OK。
自社農園の大根の粕漬けや寒天のおつまみ、酒器もそろい、売り場は明るい。地域の米と水と人が醸す上質な酒が、村を幸せな未来へつなぐ。
●米澤酒造・長野県上伊那郡中川村大草4182-1●代表銘柄:今錦 おたまじゃくし 特別純米酒、今錦 純米大吟醸、今錦 純米吟醸 金紋錦●杜氏:坂口竣弥●主要な米の品種:美山錦、金紋錦、山恵錦