スタインバーグ指揮ピッツバーグ交響楽団の「ブラームス交響曲全集」と「ベートーヴェン交響曲全集」のCDジャケットスタインバーグ指揮ピッツバーグ交響楽団の「ベートーヴェン交響曲全集」(左)と「ブラームス交響曲全集」のCDジャケット(筆者撮影)

2022年3月8日に突然、世界的なクラシック・レーベルであるドイツ・グラモフォン(ユニバーサル・ミュージック・グループ)から、ウィリアム・スタインバーグ指揮ピッツバーグ交響楽団による「ブラームス交響曲全集」(CD3枚組)が発売された。1960年代の前半にアメリカのコマンド・レコードが録音した全集である。よく表現を練った素晴らしい演奏だが、スタインバーグの名前と演奏を記憶している人は少ないだろう。この機会に、スタインバーグの知的で強靭な演奏を聴いてみよう。(文中敬称略)(コラムニスト 坪井賢一)

半世紀ぶりの正規盤ブラームス全集
ドイツのオケの空気感

 ブラームス全集のCDジャケットは、ウィリアム・スタインバーグ(1899~1978)の肖像写真だ。アメリカ中西部の田舎のオジサンの風情だが、実はドイツ出身のエリート音楽家である。

 このブラームス交響曲全集は発売当時、高い評価を集めたそうだが、1970年くらいにコマンド・レコードが消滅すると、忘れられた名盤となっていた。その後、10年に一度くらい、演奏著作権の切れたレコードの、出来の悪いコピーCDが出回った。しかし、今回はグラモフォンによる正規盤で、録音状態もまあまあ良好である。

 もともとコマンド・レコードは35mm磁気フィルムにステレオ録音していたはずで、太いテープだから記録された情報量は非常に多い。ドイツ・グラモフォンは「オリジナル・テープからリマスタリングした」と宣伝文に記している。「オリジナル・テープ」がどの段階のテープかわからないが、最終的に音のデジタル処理をしているはずで、聴きやすくなっている。低弦を右手下方に、中高弦を左右に広げ、その上に管楽器を乗せるベーシックなオーケストラ音楽のサウンドだ。

 ピッツバーグ交響楽団はかなりうまい。深く弾き込んだ弦など、ドイツのオケの空気感だ。そして、次ページからはウィリアム・スタインバーグの生涯を追いつつ、ブラームス全集の聴きどころを解説していく。2年前に同様にリリースされた、スタインバーグ指揮による「ベートーヴェン交響曲全集」との聴き比べもしてみたい。