2020年はベートーヴェン生誕250周年で、世界各地で記念演奏会が企画されていたが、新型コロナウイルス感染症のパンデミックのため、今のところ大半は中止か延期となっている。実は、2020年はチャイコフスキーも生誕180周年の記念すべき年なのである。抒情的で美しい旋律、金管楽器の派手なリズムとハーモニーなど、世界中でベートーヴェンに負けないほどの人気があるチャイコフスキーだが、なかでも1番人気の「悲愴」交響曲の新しい録音を、30代から40代の指揮者で聞き比べてみよう。(ダイヤモンド社論説委員 坪井賢一)
生誕180周年のチャイコフスキー
悲劇的な由来で知られる「悲愴」
チャイコフスキー(1840~1893年)のアニバーサリーイヤーを祝していろいろな企画が進んでいたようだが、こちらも延期や中止が増えている。非常に残念だったのは、2020年に80歳を迎える指揮者、小林研一郎氏と日本フィルハーモニー交響楽団が4月に予定していた交響曲全曲連続演奏会が2021年に延期されたことだ。
チャイコフスキーの交響曲はナンバリングされた作品6つとナンバーから外したマンフレッド交響曲と、合わせて7曲ある。小林氏は、マンフレッド交響曲を含む7曲の連続演奏会を企画していた。
世界のオーケストラが演奏会で取り上げ、そして中学、高校の音楽の時間に聞くことが多いのは第4番、第5番、第6番の後期3大交響曲である。
なかでも第6番ロ短調は「悲愴」と名付けられた標題音楽で、その悲劇的な由来が人々を刺激し、心を揺さぶり続けている。「悲愴」はフランス語のタイトル「パセティーク(Pathétique)」の和訳だが、語源はギリシャ語のパトス(pathos)だそうで、「熱情的な精神」が本来の意味だ。悲愴もパトスのうちに入るだろうが、もっと幅広い意味である。反対語はロゴス(logos)で、理知・理性といった意味だ。
では「悲愴」は誤訳なのかというと、そんなことはない。第4楽章まで聞けば「悲愴」はこの曲にふさわしい和訳だと思える。