「自分のことは自分が一番よくわかっている」。人はそんなふうに思い込みがちだが、自分の体の機能については、知らないことだらけといっても過言ではないだろう。『すばらしい人体』では、自分たちの体が持つすばらしい機能を解説しながら、日常的に何気なく発生している生理現象のふしぎも解き明かしてくれる。例えば、誰もが自然に行う「おなら」は何でできているのかを、ご存じだろうか。おならの主成分は腸内で発生するガスだと思われがちだが、実際は違う。ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント9万人超のフォロワーを持つ著者の山本健人氏に詳しく聞いてみた。(取材・構成:真山知幸

【ベストセラー医師が教える】「おなら」と「げっぷ」にまつわる衝撃の事実とは?Photo: Adobe Stock

喉のすごい構造

――『すばらしい人体』を読んで、肛門が実は優れた機能を持つことを知って驚きました(2022/5/29掲載記事参照)。瞬時に固体と気体を見極めているんですね。記事の反響が大きく、読者からは「でも私の肛門はたまに間違えるぞ」なんて声も寄せられました。

山本健人(以下、山本):時々ミスするのはやむを得ないですよね。ほとんどうまくできていることに価値があると思います。肛門に限らず、体の仕組みは非常によくできているだけに、うまくいかないときが強く印象に残ってしまうんですよね。

 食べ物を食べてむせてしまうのも、体でたまに起こり得るミスの一つです。喉の構造についても案外に知られていないのですが、肛門と同じく、実に優れたものです。

 何かが口を通って体内に入るとき、入口は一つですが、喉の奥で2つの道に分岐します。なぜかというと、食べ物ならば食道へ、空気ならば気道にと分別しなけれならないからです。喉の構造が工夫されているのですね。

 食べ物を飲み込む時は、気道のほうに行かないように「喉頭蓋」という蓋が閉まるようになっています。すごい仕組みだと思いませんか。

口から出るか、お尻から出るか

――当たり前のようですけれど、よく考えれば確かに……。食べ物なのに間違えて空気だと誤ってしまい、食道ではなく気道に入ったときに「むせる」わけですね。逆だとどうなりますか。

山本:食べ物と一緒に空気が食道に入ってしまったときは、実はそれほど困りません。その場合、体内に取り込まれた空気は、口からげっぷとして出るか、お尻からおならとして出るかで、体から排出されます。げっぷは医学的には「曖気」と呼ばれる現象です。私たちは食事のときに、無意識に空気も一緒に飲み込んでいるんです。

おならと爆発事故

――飲み食いしているときに、誤って食道に入ってしまった空気が、おならやげっぷとして出るわけですか! 全く知りませんでした。

山本:おならは臭いがあることから「自分が飲み込んだ空気がおならになる」という認識があまりないですよね。実際のおならは、飲み込んだ空気に、大腸の腸内細菌が発するガスが少し混じってできると考えられています。

 ちなみに2019年にフロリダ州で、おならに含まれるメタンガスが原因で家のトイレが爆発した事故が報道されたことがあります(https://www.excite.co.jp/news/article/Real_Live_48091/)。

 どうやら、家の外にある浄化槽に偶然メタンガスが溜まっていたらしく、ここに落雷して引火、配管を通じてトイレに爆風が侵入し、便器が破壊されたようです。

 おならには、少量とはいえ腸内細菌が作る多種類のガスが含まれていて、可燃性のものもありますから、これが多量に貯留すると確かに引火するリスクはあるんですね。

 一方、げっぷは、おならのような匂いはしませんよね。おならが通過する大腸にはものすごい数の腸内細菌がありますが、げっぷが通過する胃には強い酸があるので、大腸にいるような普通の腸内細菌は住むことができません。

 そのため、げっぷの臭いは、単純にいろんな食べ物が混ざった臭いということになります。

体の機能はすばらしい

【ベストセラー医師が教える】「おなら」と「げっぷ」にまつわる衝撃の事実とは?山本健人(やまもと・たけひと)
2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学)外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。Twitter(外科医けいゆう)アカウント、フォロワーもうすぐ10万人。著書に16万部突破のベストセラー『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)など。

――そうやって一つひとつ理由を聞いていくと、生理現象も腑に落ちます。『すばらしい人体』では、そのほかにも、便意を催す理由や、お腹が鳴る仕組みなど、身近なトピックスから人体について理解を深めることができます。副題にある通り、まさに「体をめぐる知的冒険」が楽しめる一冊ですね。

山本:多くの場合は、体の機能が衰えたり、失われたりして初めてその価値に気づきます。日常的な動作に慣れてしまうのは無理もないことですが、「今できていること」に目を向けることで、気づける幸せもあるのではないでしょうか。

 本書が、最も身近にある「人体の面白さ」を楽しむきっかけになればと思います。