梅雨の季節。気候が安定せず、体調を崩しがちな人も多いのではないだろうか。新年度が始まりようやく慣れてきたところで、どっと疲れが出やすい時期でもある。2021年4月に発売された『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』(クルベウ著 藤田麗子訳)は、「無理せず、自分のペースで自由に生きたい」という人におすすめの1冊だ。著者のクルベウ氏は事業に失敗し、自分を励ますためにSNSに投稿していた癒しの言葉が多くの共感を集め、2015年に作家デビュー。本作はクルベウ氏の日本語初翻訳作品だ。読者からは「1ページ目から涙が出た」「すべての文章が刺さった」「大切な人にプレゼントしたい」との感想が多数寄せられている。禅僧で精神科医の川野泰周さんも、本書について「このタイトルこそが、大丈夫じゃない自分に気づくきっかけになる」と語る。今回は、川野泰周さんに「SNS疲れ」について話を聞いた。
SNSにはたたく人が必ずいる
――コロナ禍に入って、どんな悩みの方が増えていますか?
川野泰周(以下、川野):ご自身の未来、将来に関する不安を訴える方が多くなったことを感じています。
世の中の情勢が先行き不透明になっていることが原因のひとつでしょう。
仕事についても、安定した雇用が確保されないなど、目の前の現実とどう向き合ってよいのか、そのことで思い悩む方が増えていると日々感じています。
最近もうひとつ気づくのは、SNS上でのやりとりで悩んでおられる方が少なくないということです。
――SNSの悩みですか?
川野:はい。SNSで特定のグループやコミュニティから外されてしまった、あるいは特定の相手からSNSを介して誹謗中傷されたことで人間不信のようになったしまう方も少なくありません。
たとえば、動画やライブ配信をおこなって投げ銭をもらっている方など、SNS上での活動によってお金はもらえるけれど、その喜びよりも誹謗中傷の書き込みのショックの方が大きく、うつのような状態になってしまうこともあります。
どんなところにもいわゆる「たたく人」は必ずいて、必死に相手をおとしめる内容を投稿し続ける、あるいは、お金を出しているのだから、何を言ってもいいのだという特権意識にもとづいて、悪口だけを書き続ける人もいます。
こうした誹謗中傷について運営側に対処をお願いしても、書き込みをする人は次々とアカウントを変えてたたく行為を続けるため、企業サイドも制御しきれない状況のようです。
つながりすぎると疲れるのは必然
――なるほど。SNSの誹謗中傷に対して裁判する方も増えていますよね。コロナ禍に入って、ますますSNSに対する依存度も高まった気もします。
川野:そうですね。コロナ禍で人と直接会えなくなったぶん、他者とのコミュニケーションや絆をSNSで補うことが当たり前になりました。
以前のように定期的に直接知り合いと会う時間を持つことができれば、ネットの世界ではいろいろ言われていても現実の世界はちがう、と思えるのですが、それが希薄になることでSNSの中の自分、アバターである自分が「本当の自分」みたいに錯覚してしまう人が多くなりました。
――なるほど。SNSをしすぎると、SNSの中の自分がすべてのようになってしまう、という感覚はわかる気がします。あと、SNSでフォロワーが多くなるにつれて、自由に発信しにくくなったと感じている人もいるようです。
川野:そうですね。読者やファンの人とつながりすぎることも、人によっては大きな苦痛になるリスクをはらんでいるでしょう。
逆にいろいろ言われたほうが楽しいとか、炎上させたほうが自分の名前が売れて価値が上がるんだ、というタイプの方も中におられますが、それはたぐいまれなる「特殊能力」と考えたほうが良さそうです。
通常はつながりすぎると疲れてしまう方の方がはるかに多いと感じています。
フォロワーとは文字通りフォローしてくれている人という意味ですが、彼らは時に「監視者」にもなり得るからです。