梅雨入りの時期。肌寒い日もあり、体調を崩しがちな人も多いのではないだろうか。新年度が始まりようやく慣れてきたところで、どっと疲れが出やすい時期でもある。2021年4月に発売された『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』(クルベウ著 藤田麗子訳)は、「無理せず、自分のペースで自由に生きたい」という人におすすめの1冊だ。著者のクルベウ氏は事業に失敗し、自分を励ますためにSNSに投稿していた癒しの言葉が多くの共感を集め、2015年に作家デビュー。本作はクルベウ氏の日本語初翻訳作品だ。読者からは「1ページ目から涙が出た」「すべての文章が刺さった」「大切な人にプレゼントしたい」との感想が多数寄せられている。禅僧で精神科医の川野泰周さんも、本書について「このタイトルこそが、大丈夫じゃない自分に気づくきっかけになる」と語る。今回は、川野泰周さんに「疲れがたまったときにできること」​について話を聞いた。

【精神科医が教える】「世界が灰色に見える」人は要注意!疲れがたまったときにも効果的な「自己肯定感を上げる方法」とはPhoto: Adobe Stock

限界を超えてから病院に来る人たち

――川野先生は禅僧として、精神科医として悩める方と常日頃から向き合っていらっしゃいますよね。病院に来られる方はやっぱり無理しすぎてしまいがちな人が多いのでしょうか。

川野泰周(以下、川野):そうですね。はたから見るとつらそうなのに、本人は大丈夫、大丈夫と我慢してしまう方が多いと思うんです。私の勤めるクリニックにも限界を迎えた方がいらっしゃることが多いです。

――限界を迎えてから来られる方が多いのですね。

川野:そうですね。病院にいらっしゃる患者さんには、もちろん病状を回復させるための治療に最優先で取り組んでいただくのですが、少し落ち着いて小康状態を得てからは、「これからはもう少し早めに、自分の大変さに気づくためにはどうしたらよいのか」という観点に着目して介入をする、というのが私の診療スタイルなんです。

 この『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』という本のタイトルは、「マインドフルネスの大切さ」を伝えるメッセージそのものですよね。

 つまり、「大丈夫じゃない自分」に気づいていない人に対する、1つの提案だと思うんです。1つの提案というか、100の提案というか(笑)。

一時的な成功体験に基づく自己肯定感は長続きしない

――マインドフルネスとはどういうものでしょうか。

川野:自分の感覚をそのまま受け取ることです。1つひとつの感覚と丁寧に向き合って過ごしてみる。

 たとえばカーテンを開けたら日差しがきれいに入ってきた、明るくなったという感覚だったり、今日の空には雲が多いなという気づきだったり。

 カーテンを閉めたら、開けているときより柔らかな光になる、など光の変化を感じることすらも1つの気づきです。

――なるほど。マインドフルネスな考えをしていると、どのようなメリットがあるのでしょうか。

川野:「セルフ・コンパッション(自慈心)」が養われます。

 実は、一時的な成功体験に基づく自己肯定感というのは、長続きしないものなんです。

 成功体験をコツコツと積み重ねることで、徐々に自分自身を肯定する心を育むというのはもちろん大切なのです。

 けれども、世の中の物差しによってはかられる「勝利」がもたらす自己肯定感はとても短い時間しか持続しません。

 そこで大切なのがセルフ・コンパッションです。

 自分に対する慈しみに裏づけられた自己肯定感は、一生涯続くと言っても過言ではありません。