現代は、「課長」受難の時代だ。メンバーの価値観の多様化、働き方改革への対応などに加え、リモートワークへの対応という難問まで加わった。しかし、これを乗り越えれば、新たな「課長像」=「課長2.0」へと進化できる。そう主張する『課長2.0』がロングセラーとなっている。著者は、『社内プレゼンの資料作成術』などのベストセラーで知られる前田鎌利氏。管理職は「自分の力」ではなく、「メンバーの力」で結果を出すのが仕事。それはまるで「合気道」のようなもの。管理職自身は「力」を抜いて、メンバーに上手に「技」をかけて、彼らがうちに秘めている「力」を最大限に引き出す。そんなマネジメント手法について、ソフトバンク時代に管理職として目覚ましい成果を上げた経験を踏まえて書かれた内容に、SNSなどで「管理職として勇気づけられた」「すぐに実践できるヒントが詰まっている」と共感の声が寄せられている。本稿では、「自分のポジションを守ろうとしない管理職」こそが、部下から感謝され、上司に引き上げられることについて解説する。

部下から感謝される「上司」が考えているたった一つのこと写真はイメージです Photo: Adobe Stock

上層部の会議に同席させて、
「後任候補」を育てる

 管理職は、自分の「後任候補」のプロモーションに時間と手間をかける必要があります。「後任候補」の認知を高めることができれば、活躍の機会を与えられたその部下は、上司であるあなたに感謝の念を覚えるでしょう。しかも、それこそが、あなた自身の社内的な評価を高めることであり、自らの新たなキャリアを切り拓くことにつながるのです。

 そして、「公認候補」のプロモーションにおいて最も効果的だと思ったのは、私が参加する社内会議に同席させたり、代理出席させることです。そこで経験を積んでもらうことで、「後任候補」として上層部や他部署のキーパーソンにプロモーションするとともに、そのメンバーのさらなる育成にもつながるからです。

 上層部の会議に同席させるためには、そのメンバーが中心となってまとめた提案をプレゼンするときに連れて行くのがいちばん自然でしょう。その提案について最も詳しいのはその人物以外にいませんから、上層部の方々も拒否する理由がないからです。

まずは「やってみせる」のが、部下を育てるコツ

 もちろん、最初から、本人にプレゼンさせる必要はありません。

 まずは、私が、どのように準備をして、どのようにプレゼンをして、質疑にどのように回答して、どのように「GOサイン」を勝ち取るのか、そのプロセスを実演してみせます。実際にやってみせることで、部下にロールモデルを提供することに徹するのです。

 そして、徐々に、本人の役割を増やしていきます。まずは、プレゼン資料の準備をさせる。次に、プレゼン内容についての質疑応答の際に、できるだけ部下に応えてもらうようにする。最後に、実際にプレゼンまで彼にやってもらうというふうに、ステップを踏んでいくのです。

「失敗」させながら、部下を育てる

 当然、最初は失敗することも多いものです。

 そもそも、まだ役職もついていない中堅メンバーが、いきなり上層部の会議で発言するだけでも強い緊張を強いられます。言わなくてもいいことを口走ってしまったり、誤った情報を伝えてしまったり、つい生意気な発言をして叱責されるようなこともあるかもしれません。

 しかし、それも貴重な経験。通過儀礼のようなものです。致命傷にならないようにフォローしてあげていれば、その失敗から多くのことを学んでくれるはずです。

 ただ、上層部の会議で叱責などされると、精神的ダメージは大きいため、時には、意識してそのメンバーを褒める必要もあるでしょう。ここで、私が意識したのは「成長」を具体的に褒めるということです。

 例えば、「今日のあの発言は言葉足らずで不用意だったけれど、以前は、君自身の意見をなかなか口にできなかったのに、あのように事業の問題点に一歩踏み込む発言をしたこと自体は素晴らしかったと思うよ。次は、真意がちゃんと伝わるように言葉を尽くすことを意識してほしい」などと褒めるべきところ褒めながら、ネクストステップを示すわけです。

 このような働きかけをすれば、失敗をして落ち込んでいるメンバーも、褒められたことで気持ちが上向き、ネクストステップを提示されたことで次に向けて気持ちを切り替えることができます。こうして、ステップ・バイ・ステップで成長していってもらえればいいのです。

 太平洋戦争時に連合艦隊司令長官を務めた山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」という有名な言葉がありますが、これは真理です。少々手間はかかりますが、この言葉を実践することによって、「後任候補」を育てることができるのです。

上層部に部下の「成長プロセス」を
見せることが大切である

 実は、この「成長プロセス」を上層部に見せることに大きな意味があります。

 というのは、課長クラス以上の昇格基準は、実績もさることながら、後継者を育成できているかどうかが非常に重要なポイントになるからです。つまり、失敗続きだったメンバーの成長を上層部に印象付けることができれば、「彼も成長したな。前田(注:筆者のことです)をいまのポストから外して、彼をその後任にしても務まりそうだな」と思ってもらうことができるのです。

 重要なのは、そのように思ってもらうのには、それなりの時間がかかるということです。

 定期的な組織変更や昇格人事の時期が迫ってくると、次期ポストの話がちらほら出てくるものですが、その時期になって慌ててアクションを起こしても手遅れ。平時から、部下のプロモーションを地道に続けておくことによって、「後任候補」としての認知をコツコツとつくっておかなければならないのです。

自分が「身軽」になることが大切

 こうして、上層部に、そのメンバーを「後任候補」として認知してもらうことができたら、どんどん仕事を手渡していくことができるようになります。そして、自分が「身軽」になることが大切です。

 というのは、そうなると上司が放っておかないからです。「君は余裕がありそうだな……」と、有望な新規プロジェクトを上層部から引っ張ってきてくれるようになるのです。もちろん、「予算と人員」もセット。こうして、チームの増強を図ることができるわけです。

 そして、新規プロジェクトでも質の高いアウトプットを出せるようになると、状況は激変していきます。まず、他部署のやる気のある若手が「前田さんのところに行けば面白い仕事ができる」と、私のチームに異動願いを出してくれるようになりますから、雪だるま式にチームが強化されていくのです。

 あるいは、「身軽」になることができれば、社内横断プロジェクトなどにも積極的に参画できるようにもなりますし、社外の人的ネットワークに飛び込んでいくだけの余裕ももてるでしょう。

 こうして、社内外を問わず、人的ネットワークを広げ、新たな「知見」「経験」を積み上げることができれば、確実に「人材価値」を高めることにつながります。これは、チームの現場業務にどっぷり浸かっていては絶対にできないことであり、これこそが、課長クラスの管理職がめざすべきワークスタイルなのです。

自分のポジションを守らない

 このワークスタイルを手にするために重要なのは、「自分のポジションを守らない」というメンタリティです。

 実際、自分のポジションを守るために、意識的・無意識的を問わず、あえて「後任候補」を育てようとしない管理職が存在します。自分がいなければ、そのチームが回らない状態を維持しようとするのです。

 しかし、それは自分の首を締めるだけ。そうではなく、「後任候補」を育てて、自分のポジションを譲る。そして、自分はより「高い地平」を目指して進んでいく。そのようなメンタリティをもつ人だけが、その可能性を最大化させることができるのです。

(本稿は、『課長2.0』より一部を抜粋・編集したものです)