管理職は「自分の力」ではなく、「メンバーの力」で結果を出すのが仕事。それはまるで「合気道」のようなものです。管理職自身は「力」を抜いて、メンバーに上手に「技」をかけて、彼らがうちに秘めている「力」を最大限に引き出す。そんな仕事ができる人だけが、リモート時代にも生き残る「課長2.0」へと進化できるのです。本連載では、ソフトバンクの元敏腕マネージャーとして知られる前田鎌利さんの最新刊『課長2.0』を抜粋しながら、これからの時代に管理職に求められる「思考法」「スタンス」「ノウハウ」をお伝えしていきます。

「判断の早いリーダー」は“3つの軸”で考える写真はイメージです。Photo: Adobe Stock

「本当に利益をもたらすのか?」
という財務的視点

 課長をはじめとする管理職の重要な職務は「意思決定」です。

 現場で仕事をするなかでメンバーが直面するさまざまな課題に対して、メンバーと相談しながら「対策」「解決策」を決める。自らの権限の範囲内で決定できることは、管理職の責任でスピーディに意思決定し、権限範囲を超える場合には、即座に上層部の意思決定を仰ぎ「GOサイン」を得ることができなければ、チームの活動量は落ちざるをえません。

 そして、迅速かつ精度の高い意思決定を行う(あるいは上層部のGOサインを得る)ためには、課題に直面したメンバー自身が「解決策」を考案する力を身につけ、その提案を受けた管理職が即座に「GOサイン」を出したり、適切な修正を加えるという「形」をつくらなければなりません。そのうえで重要なのは、管理職と各メンバーが、「正しい意思決定」のために欠かせない「ものさし」を共有しておくことです。この「ものさし」をしっかりと共有できていれば、メンバーの提案が大きくずれることがなくなるので、意思決定にかかるコストを大幅に下げることができるからです。

 私が管理職だった頃に、常にメンバーと共有していたのは下図の三つの「ものさし」でした。

「判断の早いリーダー」は“3つの軸”で考える

 まず第一に、あらゆる意思決定は「会社に利益をもたらすもの」でなければなりません。

 当たり前のことですが、企業はあくまで「営利事業体」。利益を出さなければ事業を継続することはできませんから、「儲からないだろうけど、おもしろいアイデアだ」「儲からないだろうけど、メンバーの士気を下げないためには仕方がない」などという理由でGOサインを出すことは許されません。

 ですから、現状よりも収益アップやコストカットなど、何らかの財務的なデータが改善されることが一定の確率以上で見込まれることは、意思決定の判断基準として絶対に外すことはできません。

「判断の早いリーダー」は“3つの軸”で考える前田鎌利(まえだ・かまり)
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務