管理職は「自分の力」ではなく、「メンバーの力」で結果を出すのが仕事。それはまるで「合気道」のようなものです。管理職自身は「力」を抜いて、メンバーに上手に「技」をかけて、彼らがうちに秘めている「力」を最大限に引き出す。そんな仕事ができる人だけが、リモート時代にも生き残る「課長2.0」へと進化できるのです。本連載では、ソフトバンクの元敏腕マネージャーとして知られる前田鎌利さんの最新刊『課長2.0』を抜粋しながら、これからの時代に管理職に求めらる「思考法」「スタンス」「ノウハウ」をお伝えしていきます。

部下に腹が立ったときに、“優れたリーダー”が考える「たった一つのこと」写真はイメージです Photo: Adobe Stock

「仕事」について考えるとは、
「メンバー」について考えることである

 私は、マネジメントの「ステージゼロ」を大切にしています。「ステージゼロ」とは、具体的な仕事に入る前段階の、日常的な立ち居振る舞いやコミュニケーションのことを指す私の造語ですが、これによって、マネジメントの成否は決まると考えているのです。

 例えば、管理職から、すべてのメンバーに対して分け隔てなく声がけをして、心理的な距離を近づけたり、丁寧な受け答えを徹底することによって、メンバーが話しかけやすい存在になるといった「小さな努力」をコツコツと積み上げることが非常に大切なのです(詳しくは、こちらの記事)。

 ただ、これらも所詮は「ノウハウ」に過ぎません。

 単に、分け隔てなく声をかけたり、丁寧な受け答えをすれば、それだけでメンバーから「信頼」してもらえるようになるわけではありません。そこに「念い(おもい)」(「思い」「想い」よりも強い「おもい」のこと)がこもっていなければ、メンバーはそのことを敏感に察知するでしょう。そして、表面的な「ノウハウ」をなぞっているだけの管理職に対して、むしろ不信感をもつことになるかもしれません。

 だから、私は、管理職だった頃は、毎朝、メンバーについて考える時間をもつようにしていました。

 管理職は、メンバーに動いてもらって結果を出す存在ですから、仕事について考えるということは、仕事を託しているメンバーについて考えることなのだと思います。仕事を託している相手が、今どのような状態にあって、どのように仕事をしているのかということから、どんな夢をもって、どんなキャリアを望んでいるのかといったことまで親身になって考えられたときに初めて、そのメンバーにどのように働きかければよいかが見えてくるのです。

 だから、私は毎朝、「今日という一日で、チームとしてどのようなアウトプットを出す必要があるのか?」「そのためにはどういう段取りで進める必要があるのか?」ということを考えるとともに、それぞれの仕事を担当しているメンバー一人ひとりに思いを巡らせるようにしていました。

 私は毎晩、風呂につかりながら、その日一日を振り返り、「自分のこと」「メンバーのこと」「チームのこと」などに思いを巡らす「内観」をすることを習慣にしていますが(詳しくは、こちらの記事)、いわば、その続きを毎朝していたのです。昨晩に反省したことを踏まえながら、“一日の計”を立てるわけです。

部下に腹が立ったときに、“優れたリーダー”が考える「たった一つのこと」前田鎌利(まえだ・かまり)
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務める。