「検査によって利益が得られる」という明確なエビデンスは、まだ出ていない
例えば、たった一滴のヒトの尿から何種類ものがんの「リスク」を判断できるという検診方法が話題になっています。
尿を提出するだけで自分のがんの情報を知ることができる。一見非常に有益な検査に思えます。ただし、予防医学的観点で言うと、まだかなり議論しなければならない点が多くあります。
そもそも第一に考えて欲しいのは、「最終的に何を目的にするか」ということです。
予防医学においてはざっくり言うと「病気にならない為の予防」を1次予防、「病気を早期発見する為の予防」を2次予防と定義し、「健康寿命を延ばす事」「死亡率を下げる事」を最終的な目的としています。
この線虫がん検査でも、がんの早期発見の目的を謳ってはいるのですが、予防医学的に推奨される検査(胃カメラ検査、便潜血検査etc)は様々な論文を吟味し、議論を重ねた上で厳選されたがん検診です。
現状、線虫がん検査は有効性を検証する段階であり、強く推奨できるものではありません。
・陽性となった時に精密検査、治療を行った結果、本当にがんによる「死亡率」は低下するのか? 結局発見する数が多くなっただけで死亡率は変わっていないのではないか?
・がん検診を行って陽性となった人たちに侵襲的な精密検査を行った結果起こる合併症と天秤にかけた時、本当にメリットの方が上回るのか?
「検査によって利益が得られる」という明確なエビデンスがまだ出ていません。
1990年代に登場した前立腺がんのがん検診として用いられる「PSA検診」でも上記のような議論が行われており、未だ有効性が議論されている状態です。
いわんや見切り発車で繰り出された線虫がん検査は、多くの方に推奨するにはまだ早すぎるのです。