最大の問題は「偽陽性」。がんが存在しないのに、陽性が出る?

 がん検診で必ず考慮に入れなければいけない概念が「偽陽性」です。

 偽陽性とは、実際には陰性(がんが存在しない)のに検査結果として陽性が出てしまうことです。

 偽陽性の場合は、そもそもがんが存在しないのに結果として陽性の宣告を受け、余計な精密検査を受ける事になる可能性もあるわけです。

 放射状に多くのがんのチェックを行えば行うほど、当然「偽陽性」の可能性も高まります。

 統計的に見て全体の死亡率が下がっていれば有効な検査と言えるでしょうが、現状では「あまり効果のない検査を受け、偽陽性となり余計な精密検査を受け合併症が引き起こされる」という負のリスクさえ存在するのです。

・線虫がん検査でがんの「リスク」を調べて、リスクが高かったら医療機関で検査を受ける。その「侵襲性」はどの程度のものなのか。
・「がんかもしれない」と告げられた後の「こころ」への侵襲性、精神的負担は検査を受けるメリットに見合ったものなのか。

 エビデンスの視点からもナラティブの視点からも検討すべき余地が多く残されています。

がん検診には、推奨年齢がある

 こういった偽陽性によるデメリットを最小限に食い止める為に、基本的にがん検診は推奨する対象年齢を制限しています。

 例えば大腸がん検診で有効性が示されている「便潜血検査」は、USPSTF(アメリカ予防医学専門委員会)では「50歳以上に推奨する」とされています。

 理由としては、「そもそも若年層は大腸がんになる頻度が少ない」という背景をもとに、メリット・デメリットを比較した結果として大腸がんの罹患率が上がってくる50歳からの検診を推奨しているのです。

 対して線虫がん検査はそういった年齢制限はなく、逆にAYA世代(思春期・若年世代)にも検査を推奨しているものもあり、そういった若年層への検査の弊害まで配慮されているのか疑問が残るところです。

 そして、科学的な議論が満足にされていないので、当然保険診療の認可もおりていません。

 結果として病院に受診する際も保険適応外になり、高額な費用を自費で負担する事になるという金銭的な負担も伴います。

 必ずしも自費診療が全て悪ではないでしょうが、まだ明確な根拠が揃っていない状態で多額のお金を負担するのはいかがなものなのでしょうか。

 拙著40歳からの予防医学で紹介した腫瘍マーカー検診の弊害含め、「検査すればするほど良い」というものでもありません。

今後の研究に期待したい

 ここまで線虫がん検査についてネガティブな意見を述べてきましたが、必ずしも線虫を用いた検査方法に意味がない、未来が無いと言いたいわけではありません。

 むしろ、人間の体にとって負担の少ない検査の研究が進むのは大変素晴らしいことだと感じています。

 ただし「現段階では」、明確なメリットが享受できる見込みがたっていないのでオススメしない、という意見は変わりません。今後の研究の進歩に大いに期待したいと思います。

 今回のように「尿一滴でがんが判明する」という真新しい、センセーショナルな文面に心躍る気持ちは誰もが持っています。

 おそらく同じような斬新な検査が今後も続々と登場するでしょう。その中には有効性が証明される検査も出てくる可能性もあります。

 しかし、今現在、この瞬間に皆さんが健康診断やがん検診を受けるメリットを享受できる可能性が高いのは、質の高い研究と議論に裏打ちされた、すでにスタンダードになっている検査であると、改めてお伝えしたいです。