「美意識を持った創造的活動」という
原点に立ち返ることが必要

 しかし、機械が発達する中で人間の労働は細かく分業化され、人々は次第に働く喜びを失っていきました。

 機械を使って安価で良質な製品を作れるようになった一方で、働く人自身は自ら創造的に物をつくる工芸的な喜びを失ったのです。現代では、高度に発達したコンピュータやAIが人間の仕事を奪うという事態も生じています。

 また、情報革命の延長では、スマートフォンの普及によって情報空間が身近になった一方、それに依存する人が出てきたり、新しい問題も生じてきています。

 身体の拡張の延長にあったコンピュータが、もはや身体からかけ離れてしまって、身体との調和が取れなくなってきているのです。

 工芸の延長でテクノロジーが発達してきたはずなのに、それが人を脅かしかねない。工芸による「新しいルネッサンス」とは、そんな時代からの転換です。

「美意識を持った創造的活動」という原点に立ち返ることが必要な時期に、来ているのではないでしょうか。

 ここから広がってゆくのは、調和に基づく、新しい豊かな世界だと考えています。

細尾真孝(Masataka Hosoo)
株式会社細尾 代表取締役社長
MITメディアラボ ディレクターズフェロー、一般社団法人GO ON 代表理事
株式会社ポーラ・オルビス ホールディングス 外部技術顧問
1978年生まれ。1688年から続く西陣織の老舗、細尾12代目。大学卒業後、音楽活動を経て、大手ジュエリーメーカーに入社。退社後、フィレンツェに留学。2008年に細尾入社。西陣織の技術を活用した革新的なテキスタイルを海外に向けて展開。ディオール、シャネル、エルメス、カルティエの店舗やザ・リッツ・カールトンなどの5つ星ホテルに供給するなど、唯一無二のアートテキスタイルとして、世界のトップメゾンから高い支持を受けている。また、デヴィッド・リンチやテレジータ・フェルナンデスらアーティストとのコラボレーションも積極的に行う2012年より京都の伝統工芸を担う同世代の後継者によるプロジェクト「GO ON」を結成。国内外で伝統工芸を広める活動を行う。2019年ハーバード・ビジネス・パブリッシング「Innovating Tradition at Hosoo」のケーススタディーとして掲載。2020年「The New York Times」にて特集。テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」「ガイアの夜明け」でも紹介。日経ビジネス「2014年日本の主役100人」、WWD「ネクストリーダー 2019」選出。Milano Design Award2017 ベストストーリーテリング賞(イタリア)、iF Design Award 2021(ドイツ)、Red Dot Design Award 2021(ドイツ)受賞。9月15日に初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』を上梓。