浜田宏一氏はまだ・こういち/米エール大学名誉教授。1936年、東京生まれ。58年に東京大学法学部を卒業、60年に同大経済学部を卒業。65年にエール大学で経済学博士号を取得。東京大学経済学部教授を経て86年にエール大学経済学科教授。2001~03年に内閣府経済社会総合研究所所長を務める。2012~2020年に安倍政権の官房参与を務め、アベノミクスの指南役となった。研究においては国際金融論に対するゲーム理論の応用で国際的な注目を浴びた。日本のバブル崩壊後の経済停滞については金融政策の失敗がその大きな要因と主張し、日本銀行の金融政策を批判してきた Photo by Toshiaki Usami

安倍晋三元首相の経済政策の指南役を務めた浜田宏一氏・米エール大名誉教授が、安倍元首相の急逝を深く悼むとともに、アベノミクスによる異次元緩和の方向について見解を示した。日本の金融政策を今、引き締めに転じる必要があるのか?答えは「ノー」でもあれば「イエス」でもあるとして、半ば見直す局面であることを示唆している。

アベノミクス指南役の浜田氏語る
政策転換は「ノーでもイエスでもある」

 安倍晋三元首相が凶弾に倒れ、世界が一気に暗転したような衝撃を受けている。安倍元首相に請われて内閣官房参与を務めた者として、放心状態に陥っている。

 安倍元首相は後述するように、金融緩和を断行し多くの雇用を生み出したという点で、日本経済に深く寄与した。私は安倍元首相以前にも日本の政治家に対し、経済学的な観点から意見を述べたことが何度かあったが、多くの政治家は「経済や金融は難しいから、専門家である日本銀行と財務省に任せるしかない」という立場だった。

 しかし安倍元首相は、きちんと自身で経済学の書籍や資料を読み、「財務省や日銀の言っていることは、現実を踏まえると正しくないのではないか」と直感し、さらに私たち経済学者と議論を重ねて理解を深めた。

 安倍元首相の言葉の端々から察するに、病によって政権を離れざるを得なかった苦境の中で、自身の政治家としての使命はどこにあるのか真剣に考え抜き、その結論として正しい経済メカニズムを理解しようと努めたのだろう。安倍元首相の死去を深く悼み、心から冥福を祈る。

 さて、長く異次元緩和を続けてきた日本の金融政策を今、引き締めに転じる必要があるのか否か。これがダイヤモンド編集部からの問い(編集部注・質問は安倍元首相の死去以前に行った)であるが、この答えは今後の状況によって「ノー」でもあれば、「イエス」でもあり得る。