そうなると、「起業して会社を大きくして上場して大金持ちになる」という夢を見る人に高い税率が課せられることになる。そのため、起業のインセンティブをそがれることにもなりかねない。

 もっとも、起業によって巨額の利益を得ようと夢見ている人は、もうけの半分が税金だと言われても、ひるまないだろう。もうけの8割が税金だ、とまで言われればひるむかもしれないが。

 ちなみに、起業する際に多くの人が夢見るのは、将来的に会社を上場して自分の持っている株を高く売って大もうけする、ということであろう。株式を上場せずに毎年の利益を楽しむというのもすてきだが、上場すると毎年の利益の何十倍という金額が一度に得られる可能性も高いからだ。以下では、そのメカニズムを説明しよう。

「上場して株式を譲渡すると、将来得られるであろう利益の合計額で株式を譲渡できる」というのが基本である。株を買うという行為は、今後数十年にわたって企業が稼ぐ利益を受け取る権利を取得するということだからだ。厳密には割引現在価値というものを計算する必要があるが、それについては別の機会に。

 しかし、それ以外にも上場のメリットは多数ある。まず、株式の流動性が高まることだ。非上場の株式を購入すると、売りたいときに買い手を探すのが一苦労だが、上場株であれば買い手を探すのは容易だ。いつでも売れる株を持ちたいと思うのは投資家として当然なので、非上場の株よりも上場株のほうが、値段が高くなる。

 上場すると投資家が注目し、メディアに取り上げられる機会も増えるので、知名度が高まる。上場しているということは、証券取引所にお墨付きをもらっているということだ。このため信用力も高まり、「就職したい」と考える優秀な学生が増えることが期待できる。

 上場企業は情報公開を求められるし、問題があればすぐに報道されてしまう。しかし、これは悪いこととは言い切れない。「上場企業に問題があればすぐに報道されるのに、この会社は報道されていない。この会社には問題がないのだろう」と思ってもらえるからだ。

 このように、上場には多くのメリットがあるので、起業家が上場して得た利益の半分を税金で徴収されるようになったとしても、起業家のインセンティブは大きくはそがれない、と期待できるのだ。

 本稿は、以上である。なお、本稿は筆者の個人的な見解である。また、わかりやすさを優先しているので、細部は必ずしも厳密ではない。