「静かで控えめ」は賢者の戦略──。そう説くのは、台湾出身、超内向型でありながら超外向型社会アメリカで成功を収めたジル・チャンだ。同氏による世界的ベストセラー『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』(ジル・チャン著、神崎朗子訳)は、聞く力、気配り、謙虚、冷静、観察眼など、内向的な人が持つ特有の能力の秘密を解き明かしている。騒がしい世の中で静かな人がその潜在能力を最大限に発揮する方法とは? 本稿では、本書より内容の一部を特別に公開する。
マスクもゲイツもバフェットも内向型
映画『アイアンマン』を観るたびに、ロバート・ダウニー・ジュニアの演技を称賛せずにはいられない。彼の演じるトニー・スタークは自信に満ちた超天才で、この上なく傲岸でありながら、なぜか嫌味がない。もっとも魅力的なスーパーヒーローのひとりだろう。
だが、テスラ社のCEOイーロン・マスクは、そういうタイプではない。
「基本的に、私は内向型のエンジニアだ。壇上でスピーチをする際にどもらないようするため、苦労して訓練を積んだ。……CEOとして、避けては通れなかったからだ」
とマスクは語る。マスクのほかにも、マイクロソフトのビル・ゲイツ、投資の達人ウォーレン・バフェット、メタの創業者マーク・ザッカーバーグ、アップルのスティーブ・ウォズニアック、グーグルのラリー・ペイジも、内向型として有名だ。
彼らは世界を動かす大物の実力者たちだ。派手で人目を引く外向型のリーダーとは異なるが、内向型のリーダーたちの気質にも大いに学ぶべきところがある。
カリスマより大事なものとは?
では、優れたリーダーにとって、カリスマ性はどれほど重要なのだろうか?
現代経営学の創始者といわれるピーター・ドラッカーは、長年にわたってさまざまなタイプのCEOと仕事をした。
プライバシーを重視し、自分の殻に閉じこもりがちな人もいれば、過剰なまでのコミュニケーション能力をもつ人もいた。稲妻のごとく瞬時に決断を下して会議室を飛び出していく人もいれば、慎重に時間をかける人もいた。
そうした人たちを知った上でドラッカーは、「カリスマ性は、リーダーとしての有能さを保証するものではない」と言っている。
性格は「きわめて謙虚」だった
経営管理や企業の持続性・成長に関するコンサルタント兼講師であるあるジム・コリンズは、飛躍を遂げた数多くの企業や事業を調査した。
その結果、そうした企業において、魅力的でカリスマ性のあるリーダーだと思われているCEOは、ひとりもいなかった。彼らが成功したのは、「きわめて謙虚でありながら、徹底的なプロ意識の持ち主だから」だった。
コリンズは『ビジョナリーカンパニー2』において、そのような人びとを「第五水準の指導者」と呼んでいる。
彼らは非常に野心的だが、彼らが企業家精神を発揮するのは、組織の利益のため、集団の目標達成のためであり、個人の利益や名声を得ようとする野心のせいではない。
さらに、内向型の人は孤独に慣れており、内なる精神世界を漂っている時間が長い。
内向型はよく内省し、観察や計画においても注意深く、想像力や創造力を発揮して、問題の解決策の提案に集中することができる。くわえて、入念な調査を行い、決定したことを完璧に遂行しようと努める。
また、コリンズは彼らの特徴として、「謙虚で穏やかでもの静かであり、自己抑制や自制心に優れ、控えめで内気」といった点を挙げている。
(本原稿は、ジル・チャン著『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』からの抜粋です)
ミネソタ大学大学院修士課程修了、ハーバード大学、清華大学でリーダーシップ・プログラム修了。ハーバード・シード・フォー・ソーシャル・イノベーション、フェロー。アメリカの非営利団体でフィランソロピー・アドバイザーを務める。過去2年間で行ったスピーチは200回以上に及ぶ。15年以上にわたり、アメリカ州政府やメジャーリーグなど、さまざまな業界で活躍してきた。2018年、ガールズ・イン・テック台湾40アンダー40受賞。本書『「静かな人」の戦略書』は台湾でベストセラー1位となり、20週にわたりトップ10にランクイン、米ベレットコーラー社が28年の歴史で初めて翻訳刊行する作品となり、第23回Foreword INDIES「ブック・オブ・ザ・イヤー」特別賞に選出されるなど話題となっている。現在は母国の台湾・台北市に拠点を置きながら、内向型のキャリア支援やリーダーシップ開発のため国際的に活躍している。 Photo by Wang Kai-Yun