企業による新卒社員の獲得競争が激しくなっている。しかし、本当に大切なのは「採用した人材の育成」だろう。そこで参考になるのが『メンタリング・マネジメント』(福島正伸著)だ。「メンタリング」とは、他者を本気にさせ、どんな困難にも挑戦する勇気を与える手法のことで、本書にはメンタリングによる人材育成の手法が書かれている。メインメッセージは「他人を変えたければ、自分を変えれば良い」自分自身が手本となり、部下や新人を支援することが最も大切なことなのだ。本連載では、本書から抜粋してその要旨をお伝えしていく。

「必ず部下が成長する上司」がいちばん大切にしていることPhoto: Adobe Stock

「聞いてもらう」だけで悩みの半分は解決する

「聞く」ことは、メンタリングにおいて、最も基本的な支援の手法です。

 相手の話を聞くなかで、相手が自分で気づいたり、やる気になったりするように導くことができます。

 こちらが真剣に話を聞くだけで「相手の悩みの半分は解決する」と言っても過言ではありません。悩み事がある人は、多くの場合、頭の中の整理がついていないだけなのです。

 そんな時に、「真剣に話を聞いてくれる人がいる」ことで、真剣に考えるきっかけとなります。

 そして、他人にわかるように話すということは、同時に「自分の頭の中が整理されること」にもなるのです。

「確認すること」で相手の頭が整理される

 相手の頭の中の整理を促すために、聞いた話を整理して、相手に確認してもいいでしょう。

 自分の頭の中を整理するためと言いながら、聞いた話を自分なりの言葉にまとめて伝えることで、相手もよりしっかりと問題を整理することができるようになります。

 そしてその結果、相手が自分の力で見いだした解決策こそ、相手にとっての真実であり、それは自発的な行動につながっていきます。

 しかし一方で、どれだけ優れた解決策であったとしても、こちらから押しつけたものは、相手の考えだした解決策ではありませんから、なかなか自発的な行動にはつながりません。

 相手にとって、たとえ解決策を見いだすことができなかったとしても、自分の話を真剣に聞いてくれる人がいることは、それだけで大変うれしいものです。

 それによって、それまでよりも勇気を持って、問題に立ち向かうことができるようになるはずです。

自分にとっても学びとなる

「聞くこと」は、メンターにとっても重要な意味があります。それは、相手から何かを学び取ることができるということです。

 それは、メンター自身の成長につながります。学ぶ気になれば、どのような相手からの、どのような話からでも学ぶことができるものです。

 そしてまた、自分が相手から学び取るからこそ、「ミラー効果」によって相手も自分から学び取るようになるのです。

 聞くことは、その気になればいつでも誰でも簡単にできます。そして、この簡単なことが、最も重要な支援の基本手法なのです。

 それでは、「聞く」ことのポイントを、まとめておきましょう。

 ①相手の話のすべてを受け入れること、否定しないこと
 相手の話を否定することは、相手の人格を否定することになってしまうことがあります。

 

 ②相手に関心を持って真剣に聞くこと、相手と同じ気持ちになって聞くこと
 あらかじめ先入観を持ったり、何かを意図して聞かないようにしましょう。

 

 ③話を促すこと
 基本的に求められない限りアドバイスはしません。ただし、相手が話に行き詰まった時などに、促すようなアドバイスはしてもかまわないでしょう。その際、相手にこちらの判断を押しつけないように注意しましょう。

 

 ④相手の話を自分なりに整理し、それを伝えて確認すること
 これは相手の頭の中を、整理するお手伝いをするということです。

 

 ⑤相手の話から、自分の成長につながる何かを学び取り、話をしてくれたことに感謝すること
 これによって、相手は自分に自信を持つことができるようになります。

「聞く」ときのフレーズ例
 ・「それで」「それから」
 ・「その先の話を、聞かせてください」
 ・「背景に、どのような思いがあったのかを教えてください」
 ・「つまり、私はこのように解釈しましたが、これでよろしいでしょうか」
 ・「あなたの話を聞くだけで、学ぶことがたくさんあります。ありがとうございました」