管理職は「自分の力」ではなく、「メンバーの力」で結果を出すのが仕事。それはまるで「合気道」のようなものです。管理職自身は「力」を抜いて、メンバーに上手に「技」をかけて、彼らがうちに秘めている「力」を最大限に引き出す。そんな仕事ができる人だけが、リモート時代にも生き残る「課長2.0」へと進化できるのです。本連載では、ソフトバンクの元敏腕マネージャーとして知られる前田鎌利さんの最新刊『課長2.0』を抜粋しながら、これからの時代に管理職に求められる「思考法」「スタンス」「ノウハウ」をお伝えしていきます。

“育成上手”なリーダーが、「教える」ことより大切にしていることとは?写真はイメージです。Photo: Adobe Stock

リモートワークで失われる
「職場の機能」とは?

 リモート・マネジメントにおける最難問は何か?

 私は、人材育成だと考えています。

 自走できるメンバーを育てるために重要なのは、管理職とメンバーの一対一のコミュニケーションです。管理職が「指示」=「答え」を与えるのではなく、「質問」をメインにしたコミュニケーションによって、メンバーに自分の頭で考える習慣をつけてもらうわけです。

 そして、そのような一対一のコミュニケーションは、Web会議アプリやチャットなどを駆使することによって、リモート環境下でも丁寧な対応をすることは可能ではあります。しかし、それだけでは、従来の職場環境で、当たり前のように享受できた「教育機能」がごっそりと抜け落ちてしまうのです。

 それは何か?

 周囲の同僚・先輩・上司などの仕事ぶりを、横目に見ることで得られる「学び」です。これは、メンバー全員が同じ空間で働いていることによってしか得ることができない、きわめて重要な「教育機能」だったと思うのです。

 特に、経験の少ない若手メンバーにとって、この「教育機能」が果たしていた役割は非常に大きなものがあります。

 例えば、職場において上司や先輩とどのようなスタンスでコミュニケーションを取ればいいのか、電話はどのように対応すればいいのか、お客様と面会するときにはどのように対応すればよいか、といったビジネスの基本的マナーは、周囲の人々のやり方を真似することによって身につくものです。

 もちろん、書籍を読んで学んだり、上司や先輩が口頭で教えることも必要ですが、それで一挙手一投足のすべてを網羅することは不可能です。それよりも、見様見真似でやってみることが大切。それを上司や先輩がチェックをして、足りない部分があれば、それを補足的に教えるのが効率的なのです。

 しかも、職場のよいところは、いろんな事例を目の当たりにすることができることです。職場には、ビジネスマナーに熟達した人もいれば、そうではない人もいます。そして、それぞれが、社内外でどのような人間関係を構築しているかも観察することができます。そうして比較することで、自分はどうすればよいかを考えることができるわけです。

“育成上手”なリーダーが、「教える」ことより大切にしていることとは?前田鎌利(まえだ・かまり)
1973年福井県生まれ。東京学芸大学で書道を専攻(現在は、書家として活動)。卒業後、携帯電話販売会社に就職。2000年にジェイフォンに転職して以降、ボーダフォン、ソフトバンクモバイル株式会社(現ソフトバンク株式会社)と17年にわたり移動体通信事業に従事。その間、営業現場、管理部門、省庁と折衝する渉外部門、経営企画部門など、さまざまなセクションでマネージャーとして経験を積む。2010年にソフトバンクアカデミア第1期生に選考され、事業プレゼンで第1位を獲得。孫正義社長に直接プレゼンして数多くの事業提案を承認され、ソフトバンク子会社の社外取締役をはじめ、社内外の複数の事業のマネジメントを託される。それぞれのオフィスは別の場所にあるため、必然的にリモート・マネジメントを行わざるを得ない状況に立たされる。それまでの管理職としての経験を総動員して、リモート・マネジメントの技術を磨き上げ、さまざまな実績を残した。2013年12月にソフトバンクを退社。独立後、プレゼンテーションクリエイターとして活躍するとともに、『社内プレゼンの資料作成術』『プレゼン資料のデザイン図鑑』『課長2.0』(ダイヤモンド社)などを刊行。年間200社を超える企業においてプレゼン・会議術・中間管理職向けの研修やコンサルティングを実施している。また、一般社団法人プレゼンテーション協会代表理事、情報経営イノベーション専門職大学客員教授、サイバー大学客員講師なども務