意味が分からない方がクリエーティブ

橋田 私は「いろいろなモノ・コトの別の在り方」をラボの学生さんと一緒に探究しています。仮にメディア技術が「人に意図した情報を精度高く伝達・表示する仕組み」だと一般的に思われているならば、そのパーツをちょっとずつずらして、別の可能性を考えてみるような感じです。

 例えば、高精細なデジタルディスプレーの代わりに、紙などのアナログなものを媒体にするとどうなるか、といった試みです。そこでは、紙の上にインクで手描きしたものを、自動消去したり、加筆・複製したりできる仕組みを作りました。体験した人からは「実世界のコピペですね!」といった反応がありました。インターフェースの形や素材を変えてみたら、そこに多義性や曖昧性が生まれ、情報の受け手が「連想や見立て」の能力を発揮してくれたことに驚きました。

身体から生えてくる!柔らかいロボットがもたらす新しい体験価値橋田朋子 Tomoko Hashida
東京大学大学院学際情報学府博士課程 単位取得退学。博士(学際情報学)。東京大学 特任研究員、早稲田大学基幹理工学部表現工学科専任講師、准教授を経て2021 年より同教授。身の周りの人工物や自然物の固定概念を揺さぶり潜在的な可能性や別の在り方を模索する研究・作品制作に従事。https://tomokohashida.tumblr.com Photo by ASAMI MAKURA

――あえて解像度を下げると、違った世界が見えてくるんですね。

橋田 情報の伝達対象を人間からずらすという試みとして、「犬のためのデバイス」を作ったことがあります。人間のご飯を食べたがり、ドッグフードを食べない犬のために、人間の食事における「匂い」のみをドッグフードに伝送・付与する装置です。開発した学生さんが実際にこの装置を自分の愛犬に使ってみたら、無事にドッグフードを食べてくれたそうです。

 植物そのものをデバイスにしたこともあります。これはある学生さんの気づきによるものですが、「接ぎ木」と「針金掛け」という園芸手法は、見方を変えると自然のファブリケーション技術といえます。そこで、生きた植物を1カ月かけて「接合」や「成形」した後に、剪定して組み立て、受動歩行機を作りました。

 動物や植物を対象にすると、分からないことだらけで、思い通りにいかないことも多いのですが、その分発見の喜びが大きく、より創造的になれる気がします。

――分からないことが創造性につながるということですね。

橋田 もしかしたら情報を伝達しないメディアがあってもいいのではと思います。これからのメディア技術は「正確に伝える」から「考える余地を残す」という方向にシフトした方が面白いのではないでしょうか。