「デザイン思考」を日本で最初にタイトルに冠した一冊――『デザイン思考の道具箱』Photo by ASAMI MAKURA

書店のビジネス書の棚で「デザイン」や「アート」という言葉を当たり前に見掛けるようになりました。これらの書籍でデザインはどう語られているのでしょう。書籍流通の現場に長く身を置き、あらゆるジャンルの書籍の観察と多様なデータ分析を通じて本をマーケティングしてきた著者が、デザインにまつわる書籍に改めて向き合い、デザインとビジネスの関係をひもときます。連載の第1回では今に広がる「デザイン思考」を初めて書名に冠した書籍を取り上げます。

デザインとビジネスってどんな関係?

 デザイン思考にアート思考、デザイン経営……。書店のビジネス書コーナーを歩いていると、こうした言葉がいや応なく目に入ってきます。どうやら今、「デザイン」や「アート」が、ビジネスや経営と切っても切れない密接な関係になっているようです。そこまでは分かるのですが、「じゃあ具体的にどんな関係なの?」と聞かれるとどうでしょう。デザインはデザイナーの仕事、アートはアーティストの仕事、と考えていた私には、どうもピンときませんし、明快に答えることもできません。同じような感覚のビジネスパーソンは多いのではないでしょうか。

 バズワードとして広がり、ビジネスの思考術としての「デザイン思考」という言葉が初めて和書の書籍タイトルに冠されたのはいつなのでしょうか。調べてみると、雑誌記事などを除けば2007年の『デザイン思考の道具箱』(奥出直人著・早川書房 ※13年に文庫化)が初出のようです。まずは原点から、ということで、この本から取り掛かってみたいと思います。

『デザイン思考の道具箱』には<イノベーションを生む会社のつくり方>という副題が付けられています。単行本の装丁には、タイトルを取り囲むようにぐるりと円環があしらわれていますが、これはまさに「イノベーションを生むプロセス」を図示したもの。書籍の内容がそのままデザインされているのです。