パッケージから広告、店舗に至るまで一貫したデザインによって、ブランド価値を高めてきた資生堂。そのデザインドリブンの経営を支えるクリエイティブ部門を、今年1月に子会社化した。インハウスで優秀なデザイナーを抱えることの強みで、クリエイティブをコントロールしてきた同社が、あえてその機能を独立させた狙いとは何か。新会社の代表となった山本尚美氏に話を聞いた。(聞き手/音なぎ省一郎)
クリエイティブ機能を独立させた背景にある狙い
――1916年に創設され、資生堂のイメージをつくり上げてきた意匠部の系譜に連なるクリエイティブ部門を分社化された背景は。
資生堂が2021年に策定した中長期経営戦略「WIN 2023 and Beyond」には、ブランドの強化、マーケティングの革新、組織の強化というテーマを盛り込んでいます。その中で私たちクリエイティブ部門はマーケティング機能の一翼を担いながら、ブランドを通してお客さまとの関係をつくる媒介ともいえる存在となっています。クリエイティブに求められるケイパビリティーが大きく変化してい
――具体的にはどのような狙いがあるのでしょうか。
2つあります。1つはプロフェッショナルが働く、育つ環境づくりとして人事制度を最適化することです。クリエイティブ部門は専門性の高い集団であり、そうしたメンバーが他の職種と同じ人事制度に基づいて同じようなキャリアパスを歩むことに、私自身、疑問を感じていました。クリエイティブという具体的なアウトプットを生み出していく専門性を高めることに対して、もっと適した人事制度が必要ではないかと考えたからです。
また、役職者になると他の組織と同様にピープルマネジメントに時間を割かれます。しかし私は、クリエイティブ部門は全員がプレーヤーであるべきだと考えます。クリエイティブなアウトプットを生み出せる人が管理業務に多くの時間を割くのはもったいないことです。そうした仕組みを変え、全員がプレーヤーとして価値を生み出していくには、インハウスの部門ではなく別会社化する必要がありました。
もう1つは、クリエイティブ業務の価値を明らかにするためです。インハウスの場合、他部署からの言葉一つでデザインを依頼されることがあります。それは依頼する側・される側の間に余計な壁がないという良い面でもあるのですが、双方で目的や要件が不明確なまま仕事が進むことにもつながりかねません。役務提供という点で、しっかりした価値を生み出せているかを認識する仕組みが必要だと感じました。
分社化によって、発注・受注という「取引」となります。この依頼に何が求められていて、どのようなアウトプットが生み出されるべきか、さらにそれが対価として見合うかという視点が生まれます。そうなると、発注側も生み出されたアウトプットを市場とシビアに比較することになります。クリエイティブ側としても、どの程度の価値を生み出しているかどうかの自己判断につながり、それが仕事の質を高めていくことにつながると考えたのです。