機能性フィルムメーカーが耕す、
地域と共生する純米酒
酒造りは酒蔵、米作りは農家が担うのが一般的だが、酒蔵でも農家でもない、機能性フィルムメーカーのきもとが、酒造りに関わって3年たった。
本社は埼玉県さいたま市だが、1979年に創業社長、木本氏仁さんが「なるべく自然の状態を残した工場公園を目指したい」と、養老山と鈴鹿山脈の麓にある三重県いなべ市に、工場を新設。地元と関わる中で、過疎化と休耕田の増加を知り、2011年に社員による農耕事業、きもとファームを社会貢献として発足させた。
栽培する米はコシヒカリと山田錦で、収穫量よりも、質の高い米作りを目指し、農薬は極力使わない。圃場ごとに食味値を測り、高評価を得ている。
圃場が中山間地域で寒暖差があり、養老山水系の清流が豊富、社員に農業経験者が多いことも功を奏した。反収はコシヒカリが5俵、山田錦が4.3俵と低いが、収量よりも米質を優先した結果だ。現在、9.3ヘクタールの圃場を引き受ける。
醸造を委託する酒蔵は、圃場と同じ水系にある蔵で、稲垣酒造場にコシヒカリを、後藤酒造場に山田錦の酒造りを頼む。どちらも三重県酵母MK1を用いた純米酒で、米の個性が明確に分かる。
ファームでは米の他にダリアと自然薯も栽培。野菜も試したが、サルやシカなどの獣害がひどく、栽培品種は試行錯誤を続ける。
長く働ける環境をと、定年後の雇用延長にも対応。測量した様々なデータから耕作のDX化ビジネスも研究中だ。
農と醸、未来に続く、地域との共生を目指す。
●きもとファーム・三重県いなべ市北勢町京ケ野新田下周囲450●代表銘柄:会 KAI 純米酒、一 ICHI 特別純米酒●杜氏:稲垣酒造場 稲垣陽子、後藤酒造場 後藤悦夫●主要な米の品種:コシヒカリ、山田錦