2022年8月、京セラを創業し、経営破綻した日本航空の再建を主導した稲盛和夫氏が亡くなった。稲盛氏が主宰する経営塾「盛和塾」が、2019年7月18日に「最後の世界大会」を開催した時の様子とは?大会には国内外から4800人の塾生が集まり、稲盛氏の経営哲学を引き継ぐことを確認した。(ダイヤモンド編集部 千本木啓文)
「盛和塾」――。京セラの創業者、稲盛和夫氏が主宰する経営塾の名前である。発足は1983年で、現在、国内56支部、海外48支部があり、塾生は1万4789人という規模を誇る。塾生は中小企業の2代目、3代目が多いが、上場企業の経営者も多い。
塾生はお互いを「ソウルメイト」と呼び合う。魂で結ばれた仲間という意味だ。その結束力は強く、2010年に稲盛氏が経営破綻した日本航空(JAL)の会長に就任した際には、「盛和塾JAL応援団」なる組織が自然発生的に結成された。当時の塾生は5500人ほどだったが、塾生一人一人が100人の知り合いに「JALに乗ろう」と声を掛け、合計55万人の搭乗実績を作ろうという試みだった。
いささか宗教集団的な“ノリ”ではある。そもそも稲盛氏自身が僧籍を持ち、宗教色を帯びた言動が目立つため、余計にそんな印象を持つ向きもあるだろう。しかし、盛和塾の塾生には無宗教の人もいれば、仏教徒もキリスト教徒も新宗教の信者もいる。稲盛氏の信仰を押し付ける場ではない。
また、一般に宗教集団の持つ“うさんくささ”とは、過度な入信勧誘と、信者からの集金システムにあるとしたら、それも当たらない。盛和塾の年会費は約6万~12万円で、そのうち3万6000円は塾生向け機関誌などを発行する本部経費として使われる。毎月、各地で行われる稲盛氏を招いての「塾長例会」も、前半の勉強会のみなら参加費は2000円、懇親会は1万円だ。何より稲盛氏は塾長例会への参加は無報酬で応じている。
毎月の例会のほか、毎年夏には横浜市のパシフィコ横浜で「世界大会」も開催されてきた。今年は7月17、18日に行われた。しかし、27回目を数える今年は「最後」の大会となった。
また、盛和塾自体も19年末をもって解散となる。稲盛氏が87歳と高齢となり、活動に積極的に参加できないという理由からだ。 存続を求める声も多かったが、組織が変節することを懸念した稲盛氏が「私一代限りで終わらせる」と解散を決めた。
最後の世界大会には国内外から4800人の塾生が集まり、稲盛塾長の最後の講話を心待ちにしていたが、稲盛氏の出席は体調面の理由で急きょキャンセルになってしまった。
「フィロソフィをいかに語るか」と題した最終講話は大会関係者が代読した。
講話の中で稲盛氏は、「人間としての正しさ」や「利他の心」を重視する「フィロソフィ」について語り、「それを知っているだけでは何にもならない。信念にまで高まった見識となり、さらに見識を何があろうが絶対に実行するという強い決意に裏打ちされた『胆識』となって初めて、皆さんの言葉が従業員一人一人の心に響く」とメッセージを残した。
最後に、「盛和塾が終わろうと、私の心の中に皆さん塾生は生き続ける。同じように、皆さんの今後の経営に、私のフィロソフィが生き続けることを願う」と締めくくると、会場から大きな拍手が起こった。
大会に参加した牛田彰氏は、塾生として稲盛氏に叱責された経験を披露した。スーパーマーケット、カネスエを経営する牛田氏は海外の有利な税制を利用して自社株を移転することについて稲盛氏に相談したところ、「このような私欲に根差すことについてはコメントしません」という怒りに満ちた手紙が返ってきたという。
牛田氏は「それ以降、大きな経営判断をする際は、その手紙を読み返している」と述べ、私的な利益より会社の発展や社会貢献を優先することの重要性を教えてくれた稲盛氏に謝意を表した。
以下、稲盛氏の最終講話(抜粋)
今回で27回目を数える盛和塾世界大会に、全世界から4800人もの塾生の皆さんにお集まりいただきました。1983年に京都の若手経営者の要請にお応えして始まった、この盛和塾が日本のみならず、世界各国へと広がり、今や塾の数は100を超え、1万5000人に迫る塾生が私の経営哲学を学び、業績を向上させ、従業員の幸せを実現しようと努めていただいていることを大変うれしく思うとともに、感慨深いものがあります。
こうして世界大会で一堂に会した塾生の皆さんに向けて、私が塾長として直接講話をさせていただく機会は、これで最後となります。この最後の大会を締めくくるに当たり、私からは「フィロソフィをいかに語るか」と題して、お話ししたいと思います。