9月5日に英国の保守党の次期党首、すなわち次の首相が決まる。今のところトラス外相の優位は動かない。トラス氏の首相就任が経済見通し、ポンド相場、対EU政策にどう影響するかを分析してみた。(第一生命経済研究所主席エコノミスト 田中 理)
トラス外相が次期首相に
就任確実
7月にジョンソン首相が辞任の意向を固めた英国では、事実上の後継首相選びに当たる与党・保守党の後継党首選が佳境を迎えている。
8人が立候補した党首選は、夏季休暇前の5回の議員投票でスーナク元財務相とトラス外相の2人に絞り込まれた。上位2人による決選投票は、一般党員による郵送投票で行われ、9月5日に結果が発表される。両候補はこの1カ月余り、英国各地を遊説し、支持を呼び掛けている。
議員投票で終始リードを守ったスーナク氏だが、物価高騰が国民生活を直撃する中で財政規律を重視するイメージの払拭に苦労しているほか、ジョンソン首相辞任の引き金を引いたことへの首相支持者からの反発や、インドの大富豪の娘である妻の脱税疑惑などが尾を引き、劣勢を強いられている。
トラス氏は強硬離脱派の支持を受けているうえ、大型減税や経済活性化を通じた「サッチャリズム」の再来を主張し、スーナク氏を突き放している。党員を対象にした各種の世論調査では6割前後の支持を固め(下のグラフ参照)、ブックメーカーの賭け率から逆算した勝利確率は9割前後に達する。
投票用紙は8月初旬に保守党の一般党員に郵送され、9月2日が返信期限である。これほどの差を逆転しているとは考えにくい。スーナク陣営の関係者からは事実上の敗北宣言も聞かれ、トラス氏の首相就任がほぼ確実な情勢にある。
トラス氏の次期首相への就任は英国の経済見通し、ポンド相場、対EU政策にどう影響するのか。次ページからひもといていく。