
田中 理
#21
2024年は成長ペースがやや加速した欧州経済だが、ドイツやフランスの経済停滞が重荷となり、回復ペースは遅い。25年の欧州経済は拡大基調となるのか。経済成長率やかく乱要因について予測した。

カナダ中央銀行に続き欧州中央銀行(ECB)が、4年9カ月ぶりに利下げに踏み切った。しかし、足元の賃金、物価動向を見る限り、早期の追加利下げは難しそうだ。ECB自身が物価見通しを引き上げている。ユーロも一方的に値を下げることはないとみられる。

ユーロ圏のインフレは、鈍化傾向にある。高止まりしているサービス価格の上昇率の低下がECB(欧州中央銀行)の利下げ開始時期を左右する。サービス価格動向に影響する賃上げ率の鈍化が見えてくる6月が有力だろう。年内に0.75~1%ほど引き下げられると予想する。

#8
2023年は歴史的な高インフレが直撃し、停滞基調が続いた欧州経済。特にユーロ圏で最大規模を誇るドイツ経済の不振が目立った。足元はインフレが落ち着きつつあるが、引き続き政治イベントを含めてリスク要因も少なくない。24年のユーロ圏と英国の経済について、第一生命経済研究所の田中理氏に予測してもらった。

ECB(欧州中央銀行)は7月の理事会で0.25%の利上げを実施した。9会合連続の利上げだ。米国に比べれば水準は高いものの、インフレ率もピークアウトしつつある。利上げ効果の浸透で成長率も低下しているが、今後もインフレ退治優先で政策金利は24年前半まで利下げ転換はないだろう。

英国経済はゼロ%近傍の成長が続いている。一方、物価と賃上げの高止まりが続き、さらなる政策金利の引き上げが予想される。通貨ポンドは金利高を受けて堅調に推移している。今後、インフレ抑制、景気軟着陸に成功すればさらなる上昇の公算が高まる。

暖冬などによりエネルギー危機が回避されたこともあり、ユーロ圏の景気が想定以上に底堅く推移している。しかし、今後加速する可能性は低い。労働需給逼迫、インフレ高止まりで金融引き締めの長期化の懸念は拭えず、その場合には24年以降の景気が下振れする公算が大きくなる。

英国のスナク政権の経済政策は八方ふさがりだ。市場の信認を得るためには緊縮財政を取らざるを得ず、景気後退は必至だ。一方、インフレ抑制のために利上げは続くが、最終到達点の金利は低下しそうだ。結果、ポンド相場は下落基調をたどるだろう。

9月25日にイタリアで総選挙が実施される。右派政党が統一会派を結成し、右派会派が政権を握る公算が大だ。公約を見る限り、財政拡張路線を取るのは確実だ。財政規律を求めるEU(欧州連合)との対立は不可避。イタリア国債の利回りの上昇圧力が高まり、ユーロ相場の重石となりそうだ。

9月5日に英国の保守党の次期党首、すなわち次の首相が決まる。今のところトラス外相の優位は動かない。トラス氏の首相就任が経済見通し、ポンド相場、対EU政策にどう影響するかを分析してみた。

ロシアは天然ガス供給を意図的に絞ることで、欧州に揺さぶりをかける。欧州各国は天然ガスの備蓄積み増しを進めるが、冬場にガス不足に陥る懸念はぬぐえない。ガス価格高騰による物価高継続で、ECBは利上げにおいて難しい決断を迫られる。

西側諸国がウクライナ侵攻でロシアに科す経済制裁は、もろ刃の剣。返り血を最も多く浴びるのは欧州諸国だ。インフレが高進し、景気が下降するスタグフレーションの深度を検証する。

2022年の欧州経済はやはり新型コロナウイルス感染抑制ための行動制限の影響を受ける。ただ、行動制限はそれほど厳しいものにはならないと予想される。その他の景気のへのブレーキ要因もこなして、ユーロ圏、英国ともに4%台の成長となりそうだ。

欧州では新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、景気回復期待が高まっている。加えて、昨年の反動もあり、足元のインフレ率は急上昇している。しかし、ECB(欧州中央銀行)はインフレ率上昇が一時的とみており、量的緩和の縮小には慎重だ。量的緩和縮小を始めても利上げ開始に至るまでにはかなり長い時間がかかりそうだ。

欧州各国で新型コロナウイルスの感染が再び急拡大している。多くの国で都市封鎖が再開されている。20年4~6月期を底に回復に向かうかにみえた景気は、10~12月期に再びマイナス成長に陥りそうだ。現時点では、都市封鎖はクリスマス前までの予定だが、年明けにまで解除がずれ込めば21年1~3月期もマイナス成長の可能性がある。

#10
新型コロナウイルスの急激な感染拡大を受け、欧州諸国は大規模な金融・財政政策を矢継ぎ早に講じている。その結果、膨らんだ財政赤字はコロナ危機が終息しても残る。国債の信用は悪化し、国債を保有する銀行の財務体質は劣化する。銀行部門が脆弱なイタリアでは政府と銀行の危機の連鎖が懸念される。

英国のジョンソン首相は、EUへの離脱期限延期申請に追い込まれた。期限延長後の総選挙が現実的なシナリオ。ただ、保守党が勝利し合意ある離脱が実現しても、新貿易協定発効に残された時間は短く、関税の壁復活の公算は小さくない。

ECBは先日の理事会で、利下げ、フォワード・ガイダンス強化、量的緩和の再開、長期資金供給の条件緩和などの金融緩和パッケージを発表し、世界的な金融緩和競争に本格参戦した。米FRBもさらなる利下げを模索するなか、ドラギ総裁の「最後の大仕事」が始まる。

5月23~26日に欧州連合(EU)に加盟する28ヵ国で行われた欧州議会選挙は、大衆迎合主義(ポピュリズム)や権威主義的な政党が各国で勢力を拡大した。欧州議会で市民権を獲得したポピュリズム政党は、欧州にどのような影響を与えるだろうか。
