老後の資金は一体いくら必要なのか。何歳まで生きるかがわからない以上、明確な答えは存在しない。金融庁の審議会が出した報告書により「老後2000万円問題」が話題となったが、「定年までに2000万円も貯められない」と頭を抱える人もいれば、「2000万円で本当に足りるんだろうか」と不安になっている人もいるのではないだろうか。しかし実情は、せっかく貯めた老後資金を使い切れないままに死んでしまう人がほとんどなのだという。アメリカにあるコンサルティング会社BrisaMaxホールディングスCEOのビル・パーキンス氏は著書の『DIE WITH ZERO』で、老後の資金を溜め込むのではなく、使い切って「ゼロで死ぬべきだ」と語る。本記事では、本書の内容をもとに「なぜお金を使い切って死ぬべきなのか」「どうすれば死ぬ前にお金が尽きてしまうリスクを回避できるか」などについてご紹介する。(構成:神代裕子)
コーヒーに無意識にお金を使ってはいないか
老後の資金は、老後の生活に困らないためのものだ。ただ、それがいくら必要かは「何歳まで生きるか」がわからない以上、明確に算出することはできない。
そうなると、「少しでも多く貯金しておいたほうがいいのではないか……」と考えてしまう。そのせいで、「老後の貯蓄のために」と今必要なものを我慢したり、したいとことを先延ばしにしたりしている人も多いのではないだろうか。
一方で、そんなふうに一生懸命老後のお金を貯めている割に、無意識のうちに「自動運転モード」でお金を使ってしまっているケースも少なくない。
例えば、毎日スタバでコーヒーを買う習慣がある場合、1杯400円だったとして30日買えば1万2000円だ。
そのお金を3カ月分も貯めれば、3カ月に一度、まあまあ良い温泉旅館に泊まることができる。旅行に行く飛行機代にもなるだろう。
「老後のため」と旅行を我慢しているのに、毎日のコーヒーには「なんとなく」でお金を使う。そんな矛盾を抱えてはいないだろうか。
限りある時間とお金を有効活用するためには、しっかりと何にお金を費やすかを考えなければならない。
「貯めるために使った時間」は戻ってこない
これは、お金を稼いだり貯めたりすることにも同じことが言える。
お金を貯めるためにただひたすら働いたり、明確な目標を決めずに貯蓄したりするのも、「自動運転モード」の一種だ。
お金を稼ぐために使った時間は2度と帰ってこない。しかも、貯めたお金を使い切れずに死んでしまったら、貴重な時間を費やして働いたのは無駄になる。
だから、大事なのはむやみやたらとお金を稼ぐことではない。「稼いだお金は使い切って死ぬこと」なのである。それも、思い出に残るような経験のためにお金を使うべきなのだ。
もちろん、好きで仕事をしている人もいるだろう。特にやりがいのある仕事についていると、ついつい仕事に夢中になってしまうものだ。
「仕事がひと段落したら、家族と旅行に行こう」と思いながら、何年もその旅行を実現できていない人も多いはずだ。
仕事が好きなのは構わない。ただし、仕事をすることとお金を使うことは別の問題だ。
どんなに好きな仕事でも、稼いだお金は使わなければ無駄になる。好きな仕事をしたついでにもらったお金であれ、遺産相続で得たお金であれ、得たお金は使わなければ意味がない。
「仕事に情熱を捧げる人であっても『ゼロで死ぬ』を目指すべきであることに変わりはない」と本書は語っている。
「寿命」を意識すれば「生き方」が変わる
とはいえ、いつ死ぬのかその正確な日時がわからない以上、なかなかお金を使い切ってしまうのは難しい。
その対策として、本書では自分の寿命に対して意識的になる方法と、リスク回避の方法が紹介されている。
まず、自分の寿命に対して意識的になる方法として挙げられているのが、「寿命計算機」で自分の寿命を算出してみる方法だ。
これは、現在の年齢や喫煙・飲酒などの生活習慣、家族の既往歴などから寿命の予測値を出してくれるものである。
もちろん、正確な寿命がわかるわけではないが、自分の寿命と向き合うには良いツールだ。
保険会社のウエブサイトなどで、無料で試せるのでぜひ一度試してみるといい。90歳まで生きるつもりで貯金していた人の寿命が「60歳」と出てくる可能性もある。
実際はそれより生きるかもしれないが、自分の寿命を予測してこれからの人生について考えてみると、「貯めている場合ではない」と思うかもしれない。自分の生き方を見直す良いきっかけとなる。
ちなみに筆者も試してみたが、「寿命は残り約20年」と算出された。残り20年と突きつけられたことで、「その時間で何をするか」に思考が一気に切り替わった。これはかなり有効な方法だと思う。
「長寿リスク」は「長寿年金」で備える
もう一つの方法は「長寿年金」の活用だ。「ゼロで死ぬ」上で最大のリスクになるのは、予想よりも長生きすることだからだ。
長生きするのはいいことだが、人はみんな、お金を使い果たした結果、その後の生活に困窮してしまうことを恐れている。これを「長寿リスク」という。この長寿リスクに備える方法として、本書では「長寿年金」を勧めている。
この「長寿年金」はあくまで一つの手法ではあるが、死ぬ前に資産が尽きないようにしながらも、生きているうちにお金を使い切る方法は存在する、ということだ。
リスクは確かにある。ただ、そのリスクを放置して闇雲にお金を貯めるのと、リスクをしっかり受け止めた上で必要な対策を考えるのでは大きな違いが出る。
私たちが目指すべきは、「富の最大化」ではない。「人生の喜びの最大化」だ。
そのためには、いつ死ぬのかを真剣に考えなければならない。それはつまり「生きている間に何をするか」を考えることにつながるからだ。
ぜひ一度、自分の寿命がおおよそ何歳かを計算してみてほしい。きっと残された時間への受け止め方が大きく変わるはずだ。