「地球が私たちの唯一の株主」。米国のアウトドア用品大手、パタゴニアの創業者イヴォン・シュイナード氏はこう宣言し、本人と家族で保有していた30億ドル(約4300億円相当)の株式すべてを環境保護団体などに寄付したと14日、明らかにした。
同社は以前から、売上の1%を自然環境の保護に充てる活動などを続けてきたが、「全株式の譲渡」という前例のない今回の決断は、瞬く間に世界中で話題を呼んでいる。
まさに「地球規模」といえる行動を起こしたシュイナード氏は、自身の信条、パタゴニアが目指す姿を一冊の本にまとめている。そこで本稿では、シュイナード氏の著書『社員をサーフィンに行かせよう パタゴニア経営のすべて』より一部を抜粋・編集し、大規模な組織のマネジメントのコツをご紹介する。
パタゴニアの社員の特徴とは?
20年前、組織開発が専門の心理学者に調査を依頼したところ、パタゴニアは独立心の旺盛な社員の割合が平均をはるかに超えていると言われた。独立心が強すぎて、普通の会社では働けない人が多い、と。その後は専門性を買って採用する人が増えているので多少は状況が変わっていると思うが。
ともかく、命令で好きに動かせる人を雇おうと我々は思っていない。上官に「突撃!」と言われたらなにも考えずに塹壕から飛びだす歩兵のような人はいらないのだ。指示待ち人間もいらない。
欲しいのは、おかしいと思ったら声を上げる人材だ。もちろん、いったん納得したら、鬼のように働き、それがシャツであれカタログであれ、店舗のディスプレイやコンピュータープログラムであれ、少しでもいいものを作ってくれなければ困る。こういう独立心が強い人々をまとめ、ひとつの目的に向けて突きすすむようにするのがパタゴニア流の経営である。
独立心が強い集団のマネジメントは難しい
命令で動かせないのであれば、やれと言われているのは正しいことだと納得させるか、そうであると自分で気づいてもらわなければならない。独立心の旺盛な人は、理解するか、自分もそう思うようになるまで仕事に取りかからなかったりする。
それどころか、やっているふりだけして実際はやっていないなんてこともありうる。波風は立ちにくいが、害の大きい拒否の仕方だ。
パタゴニアくらい会社が複雑になると、ひとりでどうにかできる問題などなく、どのような問題も多くの人が少しずつ貢献しなければ解決しない。こういうとき、下された決定が正しいと全員が納得し、満場一致の総意が形成されれば、それが一番民主的だと言える。
対して、政治の世界でよくあるように妥協で物事が決まると、だれもがごまかされた、あるいは軽んじられたと感じてしまい、問題が完全解決にいたらないことが多い。
部下から信頼される「最高の管理職」の特徴とは?
総意形成の鍵はコミュニケーションが握っている。アメリカ先住民族の首長は、金持ちが選ばれるわけでもなければ子分の多い者が選ばれるわけでもない。選ばれるのは、勇敢で危険に立ち向かう気概があり、弁が立つ人物である。弁が立たなければ総意の形成が難しいからだ。
情報化時代と言われる現代、管理職は現場を歩きまわってみんなと話をするのではなく、自分の机に座ったまま、パソコンの画面を通じて指示を出そうとしがちだ。最高の管理職とは、普段、机にいないのに、探そうと思えばすぐに見つけられて相談できる人ではないか。
パタゴニアのオフィスは、こういう考え方を形にしたものだ。個室はなく、全員が大部屋で机を並べて働く。扉もなければ仕切りもない。「静かに考えられる場所」はなくなるが、風通しがよくフラットな雰囲気になることによる効用のほうが大きい。群れて暮らしていれば、動物でも人間でも常に学び合うものだからだ。
(本稿は、『社員をサーフィンに行かせよう パタゴニア経営のすべて』より一部を抜粋・編集したものです)