小説はフィクションです。作家は「嘘のプロ」です。書く嘘が魅力的だからこそ、作家はご飯を食べていけます。新刊『ぼくらは嘘でつながっている。』は、浅生鴨という作家がこの世のありとあらゆる嘘を分類し、フェイクニュースから遅刻の言い訳まで、「嘘との上手な付き合い方」を説いていく本です。本記事では、「嘘が上手な人」とそうでない人の決定的な違いを一つ、お伝えします。(構成:編集部/今野良介)

小説家がこっそり明かす「嘘がヘタな人」の特徴浅生鴨氏

僕たちは本能的に嘘をつく力を持っていますが、上手に嘘をつくためには、やっぱりそれなりの技術やテクニックが必要になってきます。

こうしたテクニックは正しい使い方をすれば、人を安心させたり、占いに応用したり、コーチングなどにも応用できますが、悪用すれば詐欺師などと呼ばれるわけですから、注意が必要です。

本記事では、現実世界の嘘ではなく、あくまでも僕がフィクションを書くときに使っている嘘のつき方を中心に紹介してみたいと思います。

まず、嘘のつき方にはいくつかの基本的なパターンがあります。

代表的なものが、バレないようにつく嘘と、わざとバレるようにつく嘘です。

バレないようにつく嘘は、もちろん相手を騙すためにつく嘘です。一方、わざとバレるようにつく嘘は、相手とその嘘を共有し、楽しむためにつく嘘です。と、みせかけておいて、わざとバレるようについた嘘の裏に本当の嘘が隠されていることもありますから実は侮れません。

そういう複雑な嘘はさておき、一般的にミステリーなどでは、トリックや犯人がバレないように嘘を仕掛けていきますが、SFやファンタジーでは、最初から「これは嘘ですよ」と知らせることで、読者と世界を共有していきます。

いずれにしてもフィクションをつくるときに重要なのは、最初にちゃんと大きな嘘をついておくことです。

今から語られるのはこういう世界の話なのだ、ここで語っているのはこういう人物なのだ、こんなルールがあって、人々はこういう暮らしをしているのだ。そうやって、物語世界の決めごとを最初に提示してしまいます。

ここではどんな嘘をついても構いません。最初の嘘は信用される嘘なのです。

例)その宇宙には氷でできた生物しか存在していなかった。
例)彼女が目覚めたとき、ちょうど教会の鐘の音が街の屋根屋根に響き渡ろうとしていた。屋根裏から眺める街の光景は、今の彼女の気分と同じようにどこか寒々としていた。

なんだって構いません。

とにかく最初のうちに大きな嘘をついて、その世界のルールを決めてしまうのがフィクションの鉄則です。

ところが、何か事件が起こるたびに、

例)氷でできた生物しか存在しないと書いたが、実はほかにも生物はいたのだった。
例)あのときは教会の鐘の音だと思っていたのだが、本当は教会ではなく、時計台の音だったのだ。

なんて具合に「実は」「本当は」が入ると、だんだん信用されなくなります。

話の終盤になってから急に

例)氷でできた生物も、実際には別に全身が氷でできているわけではなくて、ところどころ氷じゃない箇所もあることがわかった。
例)先月ひょんなことで知り合っていた紳士がやってきて、彼女の問題を一気に解決してくれた。

のような「追加の嘘」が入ってくると、これはもう興ざめです。

氷じゃない箇所があるだとか、助けてくれそうな紳士と知り合っていたなんてことは、最初に嘘を提示するときに一緒に出しておかなければなりません。

現実世界で嘘をつくときも同じではないでしょうか。

問い詰められるたびに「実はそれは」「本当のことを言うと」「黙っていましたが」などと、どんどん嘘が追加されていくタイプの人は、きっと嘘が下手だと言われるでしょう。(了)

浅生鴨(あそう・かも)
1971年、兵庫県生まれ。作家、広告プランナー。出版社「ネコノス」創業者。早稲田大学第二文学部除籍。中学時代から1日1冊の読書を社会人になるまで続ける。ゲーム、音楽、イベント運営、IT、音響照明、映像制作、デザイン、広告など多業界を渡り歩く。31歳の時、バイクに乗っていた時に大型トラックと接触。三次救急で病院に運ばれ10日間意識不明で生死を彷徨う大事故に遭うが、一命を取りとめる。「あれから先はおまけの人生。死にそうになるのは淋しかったから、生きている間は楽しく過ごしたい」と話す。リハビリを経てNHKに入局。制作局のディレクターとして「週刊こどもニュース」「ハートネットTV」「NHKスペシャル」など、福祉・報道系の番組制作に多数携わる。広報局に異動し、2009年に開設したツイッター「@NHK_PR」が公式アカウントらしからぬ「ユルい」ツイートで人気を呼び、60万人以上のフォロワーを集め「中の人1号」として話題になる。2013年に初の短編小説「エビくん」を「群像」で発表。2014年NHKを退職。現在は執筆活動を中心に自社での出版・同人誌制作、広告やテレビ番組の企画・制作・演出などを手がける。著書に『伴走者』(講談社)、『アグニオン』(新潮社)、『だから僕は、ググらない。』(大和出版)、『どこでもない場所』『すべては一度きり』(以上、左右社)など多数。元ラグビー選手。福島の山を保有。声優としてドラマに参加。満席の日本青年館でライブ経験あり。キューバへ訪れた際にスパイ容疑をかけられ拘束。一時期油田を所有していた。座間から都内まで10時間近く徒歩で移動し打合せに遅刻。筒井康隆と岡崎体育とえび満月がわりと好き。2021年10月から短篇小説を週に2本「note」で発表する狂気の連載を続ける。