財務体質の改善が進み、過去2年間で総額約1兆円の積極投資を実行した伊藤忠商事。今後の成長は非資源分野と位置付けるが、投資のリターンをいかに刈り取ることができるかがカギを握る。
「これからは攻めの経営に転じ、思い切って投資のアクセルを踏んでいく」──。2011年5月、伊藤忠商事の岡藤正広社長は、自らが策定した2カ年の中期経営計画の発表の席で、そう高らかに宣言した。
それから約1年半、宣言通り伊藤忠は積極投資を進めてきた(図(1))。資源価格の高騰で潤ってきた財閥の“雄”、三菱商事や三井物産に追い付くべく、コロンビアの炭鉱やブラジルの鉄鉱石の権益を次々と獲得。資源以外でも英国のタイヤ小売り最大手やフィンランドのパルプメーカーを買収した。
投資金額の合計は、中計が満了する13年3月までの2年間で1兆円に上る見込みで、「結果的に、累計で8000億円の投資を掲げた当初の計画を上回っている」(岡藤社長)。
もちろん、巨額の投資を続けるのは伊藤忠だけではない。資源価格の高騰で、商社は最高益ラッシュが続き、投資ブームに踊った。純利益で上をいく三菱商事は、ほぼ同じ期間に伊藤忠の2倍の2兆円もの投資を実行している。
だが、積極投資を開始する直前の11年3月期、伊藤忠の自己資本は1兆1548億円。つまり2年かけて伊藤忠は自己資本とほぼ同額の新規投資を行ったことになり、成長のために前のめりになって投資を進めてきたといえる。
同時に社内では、財閥系を抜くべく純利益3000億円が目標に掲げられた。「達成は必至と、各部門のトップは事あるごとに社長に発破をかけられ」(伊藤忠幹部)、岡藤社長は業界一の“肉食系”と呼ばれるようになった。