日本企業のイノベーションに「デザイナーの力」が不可欠な理由ivector / PIXTA

デザインを経営戦略の中心に組み込めば、ブランディング力とイノベーション力が向上し、国際競争力が増す――。そんな力強いメッセージとともに、特許庁と経済産業省が「『デザイン経営』宣言」を発表して4年余りがたつ。コロナ禍で減速を余儀なくされたこともあり、「デザイン経営」が広く浸透したとは言い難いものの、注目すべき事例も生まれつつある。特許庁・経済産業省合同による「産業競争力とデザインを考える研究会」の座長を務めた一橋大学大学院教授の鷲田祐一氏に、日本におけるデザイン経営の現在地とこれからの課題を聞いた。(聞き手/音なぎ省一郎、構成/フリーライター 小林直美)

デジタル庁トップにデザイナーが就任した意味

――「デザイン経営」の広がりについて、ご著書『デザイン経営』で認知率が5%という調査結果を示されています。想定とのギャップはありますか。

 苦戦しているのは想定通りです。いっぽうで、ポジティブな想定外もあります。2022年4月、元東芝のデザイナーの浅沼尚さんが、デジタル庁の事務方トップ、デジタル監に就任したことです。デザイナーが国のデジタル政策を推進する省庁の長になった。つまり、DXを推進するならITの専門家だけでは駄目で、デザインの視点が重要だ、と政府が自ら示したといえます。

 なのに、マスコミがまったく取り上げない。気づいていないのか、無視しているのか――。もともと日本の経済系メディアは、デザインに対する無理解から、その有効性に目を向けようとしません。いまだにイノベーションを「技術革新」と簡単に置き換えてしまう。だから、デザインでイノベーションを起こそうという動きがニュースにならないし、経営者も気付かないのです。

――ビジネスにおいて、UI/UXや体験価値が重要であることは、もはや当たり前のように語られるようになっています。なぜ経営者の意識は変わらないのでしょうか。

 一に技術革新、二に株価……。まだまだ経営者の興味の中心はモノとカネです。モノを作って安く輸出して外貨を稼ぐのが日本の強み、という認識は根強いのです。ただし、現場にはデザインが価値を生み出すもの、顧客との関係をつくり出すものという考え方が浸透しています。ボトムアップでじわじわと意識は変わっているのですが、経営者には「自分からはやりたくない」という逃げの姿勢の人が多いのです。

「デザイン」はもともと「設計」という意味ですから、まったくモノづくりと遠い話ではないんですが、なかなか理解が進みません。