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ビジネスにおけるデザインの役割が広がっている。造形や装飾という狭義のデザイン性の高さが企業の競争優位につながるという認識が一般化した一方で、企業が長期的なブランド力や、イノベーションを起こす原動力としてのデザインの力に注目が集まっている。本連載では、最前線で活躍するデザイナーの言葉を通じて、デザインをビジネスに最大限生かすヒントを探っていく。第1回に登場するのは、good design company代表の水野学氏。相鉄ホールディングス、中川政七商店、NTTドコモ「iD」、熊本県「くまモン」といったプロジェクトを成功に導き、現在もパナソニック株式会社をはじめとする数々の組織のブランディングを手掛けるクリエーティブディレクターの、結果を出す思考法とは。(聞き手/音なぎ省一郎、構成/フリーライター 小林直美)
日本のものづくりが、デザインを欲している
――水野さんはこれまで、数多くの企業のブランディングプロジェクトに関わられていますが、ビジネスとデザインの関係の変化を感じられることはありますか。
時代を大きく俯瞰すると、技術重視だった日本のものづくりが、デザインを欲するようになっていると感じます。かつて、安くて丈夫な日本製品が世界を席巻した時代がありました。そのとき、欧米企業の多くがブランド化にかじを切った。今の日本の状況がそれに重なるのです。「文明から文化へ」の変化が起きていると言い換えてもいいと思います。著作家の山口周さんは、僕との共著『世界観をつくる「感性×知性」の仕事術』で、これを「役に立つ」から「意味がある」へ、モノの価値が変化していると語っていました。
その象徴ともいえるのがパナソニックです。2022年4月に持ち株会社制に移行し、八つの事業会社が誕生していますが、その前年、臼井重雄さんが同社初の「デザイナー出身の執行役員」になっています。僕は、臼井さんたちと共に、家電事業などを中心としたパナソニック株式会社のブランディングに取り組んでいます。日本のメーカーの頂点といえる企業が、デザインの力で変わろうとしている姿を目の当たりにしているのです。他の企業においても、マツダの「魂動デザイン」しかり、トヨタの「レクサス」しかり、さまざまな切り口で自社の世界観を構築しようとしています。この動きは、これからも続くと思います。
――経営者が積極的にデザインを語る風土が生まれてきた、と。
それはちょっと違います。というのも、もともと優秀な経営者はデザインに対する感度が高かったからです。パナソニックの創業者の松下幸之助さんは、1951年に米国を視察し、帰国後の第一声が「これからはデザインの時代だ」だったそうです。そして、直後に初の企業内デザイン部門を立ち上げている。僕が生まれるずっと前の話です。
現在の状況は、テクノロジーが踊り場に差し掛かっているからともいえるし、ようやくデザインに着手できる状態が整ったからともいえます。いずれにせよ、経営者がデザイナーの意見に耳を傾ける土壌は整いつつあるのではないでしょうか。