知る人ぞ知る問題解決メソッド、「問題解決の7ステップ」がついに書籍化する――。マッキンゼーで最も読まれた伝説の社内文書「完全無欠の問題解決への7つの簡単なステップ」の考案者であるチャールズ・コン氏みずから解説する話題書『完全無欠の問題解決』(チャールズ・コン、ロバート・マクリーン著、吉良直人訳)が注目を集めている。マッキンゼー名誉会長のドミニク・バートンは「誰もが知るべき、誰でも実践できる正しい問題解決ガイドがようやく完成した」と絶賛、グーグル元CEOのエリック・シュミットも「大小さまざまな問題を解決するための再現可能なアプローチ」と激賞している。本書では、「自宅の屋根にソーラーパネルを設置すべきか」「老後のためにどれだけ貯金すればいいか」といった個人の問題や「販売価格を上げるべきか」「ITの巨人に訴訟を挑んでいいか」といったビジネス上の問題から、「HIV感染者を減らすには」「肥満の流行をどう解決するか」といった極めて複雑なものまで、あらゆる問題に応用可能なアプローチを紹介している。本稿では、本書より内容の一部を特別に公開する。
「利益レバーツリー」で収益構造を視覚化する
数年前、チャールズの友人の1人が、ユニークで巧妙なデザインのピックアップトラック用アクセサリーを製造する会社を設立した。社名をトラックギアとしておこう。
この会社は年間1万個の製品を販売していて、その数は急速に増えている。現在、現金主義でも(つまり、資産の減価償却費を考慮しなくても)損益分岐点に達している。チャールズはこの会社に投資し、戦略の考案を支援している。
スタートアップ企業は、その初期段階に複雑で大きな問題に直面するが、大企業と比較して資金源もチームメンバーも限られている中で問題に取り組まなければならない。
トラックギアは、自社で製造工場を所有するべきか、どの市場セグメントで競合するか(新車のトラックと中古車トラックのセグメントがあり、それぞれに販売チャネルが存在している)、自社で営業部隊を持つべきか、マーケティングにどの程度予算を計上するか、そして最も根本的な問題として、限られた資金でどれだけのスピードで成長するかを決めなければならない。創業チームが眠れないのも当然である。
最近、トラックギアは大きな決断を迫られた。値上げをすべきか? 当初は3年間、約550ドルの初期価格を維持してきた。その後、製品機能の向上とともに材料費と製造コストは増加し、マージンは圧迫され、1個あたりのキャッシュフローは減少した。
創業間もない企業は外部の資金調達先が限られているため、キャッシュの重要性は大手企業と比べて非常に高い。トラックギアは、もし市場が製品の値上げに対して否定的に反応すれば、販売個数は減り、成長が低迷するかもしれないというジレンマに直面していた。
この種の問いに完璧な答えはないが、この問題を評価するために、利益レバーツリーという特殊な論理構造を採用した。このツリーは数学的に完全なので、意思決定にまつわる重要な要因を絞り込みたいときに使えば、さまざまな仮定をモデル化することができる。
この種のツリーの簡易バージョンを図表1に示した。
ツリーを見れば、トラックギアの問題が視覚化されていることがわかる。コストを抑えることで、製品1個あたりの変動マージンが押し下げられる。売上が伸び悩んだり個数を減らしたりすることなく、販売単価を上げることができるのだろうか。
図表2にトラックギアのデータを表示した。
仮に会社が現在の販売個数を維持できれば、7%値上げすることで現金収益性が38万5000ドル改善し、追加のマーケティングや販売プログラムに資金を充てられる可能性がある。一方で、値上げによる利益は、販売個数が650台減少するだけで打ち消されてしまう。では、どうすればよいか?
値上げが総現金利益の減少につながるかどうか(あるいはもっと深刻なことに、成長が鈍化するかどうか)は、競合他社の価格設定、顧客の価格感応度(経済学者は「価格弾力性」と呼ぶ)、サードパーティーであるディーラーがマージンの低下を受け入れることで価格上昇分の一部を吸収するかどうか、さらにはマーケティングや販売努力によって決まってくる。同社は、最近の顧客を対象に大規模な電話調査を開始し、次のことを確認した。
電話調査でわかったこと
・最大の顧客セグメントは、コスト増による適度な値上げには敏感ではなかった
・競合製品はほぼ同価格だが、機能特性がかなり異なっていた
・ディーラーは、値上げによるマージン低下を望まなかった
同社はまた、固定費を削減するか、製造を内製化するかで、同じ結果を得られるかどうかを検討した。しかし、人件費と家賃以外はほとんどコストがかかっていないため、前者は選択肢にならなかった。
現在保有しているキャッシュが限られているため、非常に高価な製造プレス機器や組み立てラインを自社で持つ投資をしても、意味がなかった。全体として、わずかな値上げで単位あたりのマージンを回復できるのであれば、リスクに見合う価値があった。
この種の財務ツリーは、代替戦略に金銭的なトレードオフが伴う問題を解決するのに、特に役立つ。本書では、より洗練されたバージョンをいくつか紹介している。
(本原稿は、チャールズ・コン、ロバート・マクリーン著『完全無欠の問題解決』を編集・抜粋したものです。この伝説の問題解決メソッドについて知りたい方はこちらの記事をご覧ください)
【著者プロフィール】
チャールズ・コン
ハーバード大学、ボストン大学卒業、およびローズ奨学生としてオックスフォード大学大学院修了。ボストン コンサルティング グループでキャリアを開始した後、マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナー、ティケットマスター・シティーサーチ社の創設代表取締役、オックスフォード大学ローズ奨学金財団CEOを歴任。100年を超える歴史を持つ財団組織において、学者のための問題解決トレーニング・プログラムの開発を含む戦略と運営を刷新するための改革を成功させる。ほかにもパタゴニア、南アフリカのマンデラ・ローズ財団、アルカディア財団など、数多くの企業や財団の理事会、役員会に参加。ゴードン&ベティ・ムーア財団の上級顧問を務める。野生のサーモンの生態系イニシアティブとパルミラ環礁研究ステーションを含む環境保護プロジェクトに参加。
ロバート・マクリーン
ニューイングランド大学(オーストラリア)卒業、コロンビア大学ビジネススクール修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーの名誉ディレクター。オーストラリアとニュージーランド共同事務所の総責任者として8年間同社を主導し、グローバル・ディレクター委員会委員を務める。オーストラリア経営大学院学部長、オーストラリア最大の慈善財団であるポール・ラムジー財団理事を歴任。オーストラリアとアジア地域の自然保護区の管財人として、湿地での水質保全、貝類の種の回復、都市の緑地からもたらされる人間の健康の改善に取り組んでいる。ビジネス、社会福祉、環境への貢献により、2010年オーストラリア勲章を受章。
吉良直人(きら・なおと、翻訳)
国際基督教大学教養学部卒業。ハーバード大学経営大学院修了(MBA)。帝人未来事業部、帝人ボルボを経て、マッキンゼー・アンド・カンパニージャパンに入社。以来、大前研一氏の同社退職まで共に働いた。『マッキンゼーが予測する未来』(ダイヤモンド社)ほか訳書多数。
マッキンゼー名誉会長 ドミニク・バートンからのメッセージ
「完全無欠(ブレットプルーフ)」。マッキンゼーでは、問題解決者としての評判にどこから攻撃を受けても守れる防弾処理を行ったという意味で「完全無欠の」という表現を超える褒め言葉はない。現代のコンサルティング会社を機能させるには、多くのスキルと多様な種類の知性が必要だが、基礎となる能力は常に創造的な問題解決力である。
近年、経済的および技術変化のペースが加速するにつれ、優れた問題解決の重要性は増大し、それに伴って対処しなければならない問題の範囲や複雑さも増している。
今日私たちは、消費者向け新製品のデジタルマーケティング戦略を開発するために雇われるのと同じように、ある国の公衆衛生システムが次のエボラ出血熱発生に備える支援のために雇われる可能性がある。より多くのデータが利用可能になるにつれて、思考の質の基準も高まっている。だからこそ、完全無欠の問題解決者が必要とされている。
産業界であれ、非営利団体であれ、政府機関であれ、新しい組織構造や運用ルールがこれからどうなるかを予測し、計画することは不可能である。また、従来のドメイン指向のトレーニングアプローチを単に推進し、適応させるだけでは十分ではない。このレベルの変化をうまく乗り越える唯一の方法は、流動的で創造的な問題解決者になることである。
世界経済フォーラムが21世紀に最も求められるスキルに「複雑な問題解決スキル」を挙げたのは、このためである。あらゆる組織が、人材採用にこの能力を何よりも求めている。
学校や大学で規律ある包括的な問題解決アプローチが教えられていないことは、驚くべきことだろう。多くのビジネススクールでさえ、ほとんどのカリキュラムに存在しない。根本原因分析や、現在流行しているアジャイルチームやデザイン思考などの要素を見ることはできるが、十分ではない。本書は、私たちがマッキンゼーで長年実践してきた実績のある方法論をアレンジし、これまでなかった問題解決の体系的なプロセスを紹介するものである。
あらゆる問題に使える完全無欠の問題解決メソッド
本書の著者であるチャールズとロブが示している7ステップの方法は、明白でわかりやすいものだ。専門的なスキルや派手な数学の才能は必要ない。本書は、この洗練された分析技術がどのような場合に価値を発揮するのか、そしてなぜそうした技術が一般に思われているよりも身近なのかを示している。
この方法は反復的で柔軟性があり、素早く適用して大まかな回答を得たり、じっくり適用して微妙なニュアンスを含むよう微調整した回答を得たりすることができる。
また本書は、近年明らかになった意思決定における人間のバイアスに抗う方法を示している。個人的な人生の決断から、ビジネスや非営利団体の問題、社会が直面している最大の政策課題まで、ほぼすべての種類の問題に有効である。
長年ランナーである私は、膝の手術を受けるかどうかについてのロブの分析に特に惹かれた。また、漁業や教育資金などに関する複雑な政策決定に対して、有権者が対応を検討するのに役立つわかりやすい分析にも感銘を受けた。
当然、事業戦略や収益性向上などの分析も楽しく読んだ。社会・環境問題には本当に手に負えないものがあるが、この方法論は、気候変動や肥満対策など、最も厄介な問題の解決にも光を当てることができる。
この種の本を書くのに、この2人の著者以上にふさわしい人はいないだろう。チャールズは、私たちがトロント事務所の若手コンサルタントだったときに、マッキンゼーの問題解決に関する社内資料として「完全無欠の問題解決への7つの簡単なステップ」を起草した。この資料は、世界中のマッキンゼー事務所から最も閲覧要求の多かった専門能力開発文書の1つとなった。
また、私はロブとは35年以上の付き合いで、初めて彼に会ったのは、オーストラリア最大企業のCEOの時間をいかに活用するかというプロジェクトを一緒に取り組んだのが始まりだった。
チャールズとロブはマッキンゼーにいる間、他の同僚と協力し合い、現在も使われている「成長戦略のための地平線までのアプローチ」を開発した。彼らが会社を辞めた後でも、起業家として、そして非営利セクターの変革者として、問題解決メソッドを実践し続けているのを見るのは楽しかった。近年では、チャールズがローズ財団の戦略開発と変革にこの独特の考え方を導入するのを、私は間近で見た。
問題解決力は21世紀のコアスキルである。誰もが知るべき、誰もが実施できる正しい問題解決ガイドがようやく完成した。
マッキンゼー・アンド・カンパニー 元マネージング・ディレクター
ドミニク・バートン
(『完全無欠の問題解決』序文より)
【ダイヤモンド社書籍編集部からのお知らせ】
『完全無欠の問題解決』
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