コロナ禍、ウクライナ危機、急激なインフレ…。いつ何が起こるかわからない世界を生きる私たちは、どんな変化にも対応できるようにストレスへの対処法を知っておく必要がある。そこでおすすめしたいのが、『ストレスフリー超大全』。多くの人がストレスを感じる「人間関係」「プライベート」「仕事」「健康」「メンタル」の5つのテーマに対して科学的ファクトと対処するためのToDoがまとまった1冊だ。本書を執筆した精神科医の樺沢紫苑氏は、「ストレスは耐え忍ぶものではなく、しなやかに受け流すことが必要である」と言う。本記事では、本書をもとに精神科医としてストレスと向き合ってきた著者が「たどりついた生き方」や「生きる意味よりも大切なもの」をご紹介する。(構成:瀬田かおる)

「生きる意味をなくして病んでしまう人」に精神科医がかけてあげる言葉Photo: Adobe Stock

「知識や経験」よりも「素直さ」

 歳を重ねると「先入観」が強くなる。これまでの人生経験から「どうせ○○に違いない」と判断し、心にブレーキをかけてしまうことが増える。

 それではその先にあるかもしれないチャンスを逃すことになる。成功や幸せをつかむことも難しくなるだろう。

 だからこそ、歳を重ねるほどに「素直さ」が必要になってくる。

「これまでいろいろな経験を積んできた」という自負もあるだろうが、それはいったん脇に置いておこう。

「とりあえずやってみよう」という気持ちを持つことがポイントだ。素直さを持ち、常にニュートラル(中立)の状態にいることで、機会やチャンスが増えていく。

先入観を取り払い、相手の「おすすめ」や「誘い」を信じて、受け入れてみるのです。その先には、無限の出会いとチャンスが広がっています(p.315)

一歩踏み出さないと、何も変わらない

「コンフォートゾーン」という言葉を聞いたことがあるだろうか。

 快適領域と訳されるそれは、自分の慣れ親しんだ場所、人、食べ物といったもののことだ。いつもこれらに囲まれていれば、心を乱されることなく、穏やかに過ごせるかもしれない。

 しかし、その快適さを楽しめない状況になったとしたら、今いる「コンフォートゾーン」を抜け出すためのサインかもしれない。

 慣れ親しんだ環境がいつまでも快適とは限らない。その環境があなたにとってベストでないと感じたならば、環境を変えることを検討してみよう。

 コンフォートゾーンの外側は、良いことばかりではないかもしれない。しかし確実に言えることは、いつもと違う環境に踏み出さなければ何も変らないということだ。

 どうか勇気を出して一歩を踏み出してみよう。

「決断できない」のは情報が足りていないから

 先入観とはこれまでの自分の経験から得た情報だ。しかし、経験には限界がある。知らない世界のほうが多いのは当然だ。

 コンフォートゾーンを抜け出したとき、「決断しなくてはならない状況」に遭遇するだろう。

 その時に、これは自分にとってプラスなのか、マイナスなのかを判断する力が必要になる。右に行くべきか、左に行くべきか、判断に迷うのは情報が足りてないからだ。

迷ったときにとる行動は、「徹底的に情報を集めること」しかありません(P.318)

 情報の集め方について、本書では次の方法を紹介している。

・異なる立場をとる本を読む
・人に直接聞く

 偏った意見ばかりを集めても意味がない。まずは本を読んであらゆる立場の人の意見を集めよう。

 1つのテーマに対して「賛成派」「反対派」「中立派」の3冊の書籍を読む「3点読み」本書は推奨している。これを実践すれば、多面的な情報を集めたと言えるだろう。

 本で様々な意見を取り入れることができたら、次のステップは「人に聞く」だ。

 生の声を聞くことは、書籍からの受け身の情報収集よりも、質問をしたり、つっこんだ話ができるのでイメージが明確になる。

 これだけでも十分ではあるが、せっかく仕入れた情報をさらに有益なものとするためには、アウトプットの習慣を持つと良い。

 書籍や生の体験談から得た知識をノートに書き留める。そして、その知識をブログやSNSなどでアウトプットすることで、自分の意見が明確になる。

 自分の意見が明確になるということは、「決断の基準」が明確になるということだ。これはチャンスなのか、それとも逃げた方が良い状況なのか見極める力がつく。

 決断の基準に関して、本書の提案はこうだ。

(1)ワクワクするほうを選ぶ
(2)難しいほうを選ぶ
(3)ドラマティックなほうを選ぶ(P.320)

 ワクワクするほうを選べば、いかなる結果となろうとも後悔はしないだろうし、難しいほうを選んだなら、それを乗り越えられたという自信につながる。

 たった一度きりの人生、ドラマティックなほうを選んで、楽しい人生を生きようではないか。

「生きる意味」を探し求めるのが人生

「生きる意味」を感じられず心を病んでしまう人が多くいるという。

 樺沢氏は、そのような患者に向き合い、精神科医として「生きる意味」を与えるにはどうしたらよいか思索を続けている。

 そして、次のような解釈にたどり着いた。

人間は、「生きる意味」を持って生まれてくるわけではなく、自分の意識が目覚めた状態で「生きている」と実感するだけ。つまり、「生きる意味」というものは存在しない、ということだと思いました(P.322)

「なんのために生きているのか」を考えながら生きるのではなく、何かにチャレンジして悩み、苦しみながらも成功したときの喜び、「自分のやりたいことは何だろう」と自問自答する過程で「生きている実感」を味わえるのだ。

 とはいえ、「生きている実感」はそうすぐには味わえない。ようやく分かったと思ってもそれが正解かは誰にも分からないのだ。

 一生をかけてようやくたどりつくのが「生きる意味」である。その意味を考え、行動し、悩むことに大きな意味があり、自己成長が起こると樺沢氏は述べ、こう提案してくれている。

「生きる意味」より「ビジョン」を重視しよう(P.324)

「こうありたい」というビジョンは自分で決めることができる。自分で人生の舵をとり行動することで、「生きる意味」にようやくたどり着けると考えれば、ストレスを感じることなく、楽しい人生を生きることができるのだ。