ノーベル賞経済学者リチャード・セイラーが「驚異的」と評する、傑出した行動科学者ケイティ・ミルクマンがそのすべての知見を注ぎ込んだ『自分を変える方法──いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学』(ケイティ・ミルクマン著、櫻井祐子訳、ダイヤモンド社)。世界26ヵ国で刊行が決まっている世界的ベストセラーだ。「自分や人の行動を変えるにはどうすればいいのか?」について、人間の「行動原理」を説きながらさまざまに説いた内容で、『やり抜く力 GRIT』著者で心理学者のアンジェラ・ダックワースは、本書を読めば、誰もが超人級の人間になれる」とまで絶賛し、序文を寄せている。本原稿では同書から、その驚くべき内容の一部を特別に紹介する。

「人生をパッと変えられる人」と「グズグズ同じままの人」の決定的な違いPhoto: Adobe Stock

環境を変えれば「古い自分」を断ち切れる

 テキサスA&M大学の編入生を対象とした研究を見てみよう。

 編入生には地元の短大から来た学生もいれば、別の町から来た学生もいた。

 この研究では、環境が変化しなかった学生と、変化した学生とを比較した。編入生の一部は環境がほぼ変化せず、ほとんどの生活習慣をそのまま維持し、同じ地域の同じ友人たちとつきあい続けた。他方、生活ががらりと変化した学生もいた。

 研究ではさらに、学生が経験した変化の度合いが、テレビの視聴や新聞の閲読、運動などの習慣に影響したかどうかを調べた。すると予想通り、変化の度合いが大きな違いを生むことがわかった。

 主に地元の短大から編入した、環境があまり変化しなかった学生は、もとの生活習慣をおおむね維持したのに対し、より大きな変化を経験した学生は、行動を変える傾向が高かった。

 ヘンチェンとジェイソン、私の研究でも同様に、カレンダー上でも、大きな節目ほど大きな反応を引き起こすことがわかった。

 たとえば新年は、普通の月曜日よりも行動への影響がずっと大きい。その日付が重要な節目であるほど、一歩後ろに下がり、自分を見つめ直し、過去をきれいさっぱり断ち切るきっかけになることが多かった。

 私はこの研究について考えれば考えるほど、フレッシュスタート(新たなスタート)の可能性が十分活用されずに眠っているように思えてならなかった。

 自分を変えたいと思ったとき、環境を変えることによって、古い生活習慣や考え方を断ち切りやすくすることができるのだ。しかも、仕事ができる新しいカフェや新しいジムを見つける、といった簡単な工夫でも効果はある。

 そのほか、自分にとって何がいちばん大事かを見つめ直すために、人生の大きな変化を利用することもできる。病気や昇進、引っ越しなどは、人生を好転させるきっかけとなる中断を引き起こすことができるのだ。(中略)

「フレッシュスタート感」のある日に始める

 もしあなたが生活にポジティブな変化を起こしたいと思いながらも、過去に失敗したからどうせ今度もダメだろうと弱気になっているなら、フレッシュスタートの機会を探してみよう。

 過去からのきっぱりした決別を感じさせるような日はないだろうか? 誕生日や夏の初日、あるいはただの月曜日でもいい。

 それとも、物理的環境を変えられないだろうか?(または、部下が環境を変える手助けができないだろうか?)

 新しい家やオフィスへの引っ越しが無理でも、カフェで仕事をしたり、ほかの日課を変えたりするだけで、フレッシュスタート感を出せるかもしれない。

 また、目標達成の進捗を測る指標をリセットできないだろうか? 年間の売上目標を月間目標に分割すれば、自分(や苦戦している部下)のために、もっと頻繁にリセットの機会をつくれるかもしれない。

(本原稿は『自分を変える方法──いやでも体が動いてしまうとてつもなく強力な行動科学』からの抜粋です)