英国史上、最も在任期間の短い首相となるリズ・トラス氏は、確かに多くの不名誉を背負っている。ポンドの下落、迫り来る不況、そして保守党の政治的崩壊は同氏の責任であるらしい。わずか44日間ですべてを成し遂げたのだ。
トラス氏は20日、大失敗の末に首相を辞任すると発表したが、その責任は同氏一人のものでは到底ない。与党保守党が政権を担ってきた12年間、特にボリス・ジョンソン前首相時代の2019年以降に同党が犯した経済政策の失態のスケープゴートにされているのだ。
トラス氏の減税策は単なる提案として2週間存在しただけで、議会での採決にすら至らなかった。ジョンソン氏の後継者として立候補した際、同氏は保守党の一般党員に向けて、自身の税制計画に関する説明を済ませていた。
同氏が就任後に提示した唯一のサプライズは、所得税の最高税率を45%から40%に引き下げることだった。これは1年間で約20億ポンドの減収となる。この唯一のサプライズが、蹄鉄(ていてつ)をだめにし、馬をだめにし、経済をだめにする「1本のくぎ」になったとされている(編集部注:英国の童謡集「マザーグース」の歌に「くぎが1本ないから蹄鉄が打てない。蹄鉄が打てないから馬が走れない。馬が走れないから騎士が乗れない。騎士が乗れないから戦争に勝てない。戦争に勝てないから王国が滅びた」という歌詞がある)。