貧富格差の拡大で
分断が進む中国社会

 中央政府はこれまで共産党エリートによる指導体制によって経済成長を優先する政策が続いてきた。8%を上回る経済成長が維持できた時期は人民の不満が出にくかったが、習近平政権では徐々に成長が鈍化し、同時に貧富の格差が拡大して、人民の不満が募っている。習近平指導部は汚職を徹底的に取り締まることで一定の支持を得ていたものの、ここに来て中国社会の分断が先鋭化し始めている。

 中国では上位1%が下位50%を超える富を占めており、上位20%の収入は最貧困層の20%の収入の10.2倍に達する。さらに、格差を示すジニ係数は0.47と世界トップクラスで、これは通常ではあれば社会不安をもたらして、治安が乱れてもおかしくないほどの数字だ。

 また、中国では人民が都市部住人と農村部住人に分けられており、移住の自由が制限されているために、生まれながらにしてどんな教育や医療が受けられるかが決まってしまう。その目的はもともとは農業人口の流出を防ぐためだったが、大都市で人口過多が起こる中で、そのしくみが温存された。そのため、中国経済が成長すればするほど、都市部住人と農村部住人の格差は開く一方となった。

 さらに習近平指導部は法輪功やキリスト教などの非共産党的な思想・宗教を弾圧して、新疆ウイグル自治区、チベット自治区、内モンゴル自治区など、独自文化を持つ民族が住む自治区の宗教や文化的慣習を破壊し続けている。さらに、一般人民に対しても監視カメラとネット管理によって監視を強化し、共産党の方針に従順なほどスコアの高い「社会信用システム」を導入して、反共産党運動が起こらないように圧力をかけ続けている。

 女性への差別も深刻化している。アメリカのピーターソン国際経済研究所によれば、中国の労働力人口における男女格差は1990年の9.4%から2020年には14.1%に拡大しており、女性の収入は男性より約20%少なくなっている。また、大卒女性の80%以上が就職活動で差別されたと述べているという。婚姻に関しても基本的に女性のみの意思では離婚が難しいシステムになっており、LGBTQや#METOO運動などのジェンダー活動が地方警察当局の取り締まり対象になることすらあるという。

 社会の分断や深刻な格差が起こっている中国で大きな社会対立が起こらないのは、ひとえに政府による監視と取り締まりが徹底されているからだ。国内で反習近平の言動が見つかれば、それが横断幕であろうとSNSの文言であろうと投稿動画であろうと、すぐに撤去・削除され、居場所を突き止められて拘束される。人民のプライバシーを犠牲にして、社会的綻びを崩壊に至らないようにぎりぎりで食い止めていると言っていいだろう。

 だが、これらの政策はすべて中国経済を弱める要因となり得る。IT部門に規制をかけ、自由な経済活動が阻害されれば、企業の成長機会が奪われる。表現の自由を奪えばイノベーションが阻害されて、能力のあるものほど中国脱出を考えて、頭脳流出が起きる。

 若者の失業率は過去最高を記録しており、能力のある者が農村部住人や女性であれば、雇用の機会が奪われたことで起こる経済的損失は計り知れない。どう考えても、習近平指導部が行ってきた経済政策で、中国経済の立て直しに貢献しそうなものは皆無なのである。