自給自足体制の布石、小麦の輸入急増のワケは

 実際に中国国内では準備が進んでいる。「技術の自給自足体制」の構築はその表れだ。

 2016年10月、習氏は「外国に頼らず、核心技術をつかんでイノベーションを起こせ」と指示、何十年も市場を独占した外国製品と“決別”する覚悟で、半導体を含む国産技術の開発を急ピッチで進めた。

 2020年10月に開催された5中全会(中国共産党第19期中央委員会第5回全体会議)では、「双循環」(国内外の経済が互いに作用する新たな仕組み)というキーワードが打ち出された。当初は「海外との経済連携が進むのでは」との期待もあったが、真の狙いは過度な海外市場への依存を避け、内需型経済を促進し、より“内側にこもる仕組み”の確立だった。

 さらに、2021年10月、習政権は兵役法を改正し、施行に踏み切った。軍事制度における重要な法律に位置づけられている兵役法の改正は、兵役業務を強化し、国民の兵役を促すためのものである。

 戦闘態勢に突入しようとする中国が欲しているのは“マッチョな愛国男子”だ。

 ところが、 若い世代に“国防”のスローガンは響かず、特にZ世代は“ニャンパオ”と呼ばれる“イケメン”たちを追いかけるのに夢中だ。漢字で「娘炮」と書くこの言葉には、「女性っぽい男性」という意味があり、「はにかむような笑い方や細い腰つきのしなり具合」(光明日報)にその特徴があるとされているが、習政権はこうした趣向に異を唱え、昨年は集中的に“ニャンパオ排除”が行われた。

 一方で、ロシアがウクライナ侵攻を始めた今年2月、中国はロシアからの小麦の輸入を拡大させた。中国はコメ、小麦、トウモロコシの自給率では98%を超えているにもかかわらず、近年、小麦の輸入を急増させている。小麦は肉まんや餃子の皮など中国の食生活に欠くことができない主要な農産物だが、2021年の輸入量は977万トンで、前年比14.2%も増加しているのだ(数字は河北省食糧物資備蓄局)。

 小麦の輸入増の理由は、養豚のための飼料確保、中国の構造的な農地不足なども指摘されるが、これは食料の備蓄政策に他ならない。

 なお、すでに中国は世界の備蓄量の半分に相当する小麦を蓄えている。また、調達ルートを多元化し、政治的リスクのあるカナダ、米国、オーストラリアからの輸入割合を縮小させ、ロシアなど新興の小麦輸出国へのシフトを模索している。