地下鉄サリン事件後の「宗教問題」の対応と重なる現在

 それを象徴するのが、1996年に「宗教法人基本法案」と仮称で呼ばれた、自民党の“幻の法案”だ。

 当時、95年のオウム真理教による地下鉄サリン事件を受けて、「カルト宗教問題」が大きな社会テーマになっていた。そこで自民党としては、宗教法人をもっとしっかりと管理すべきということで宗教法改正を推進したのだが、それだけではまだ十分ではない、という世論があった。それに応える形で、自民党は「宗教問題ワーキングチーム」を立ち上げて、新法の骨子をつくった。「歴史は繰り返す」ではないが、今のムードとまったく同じなのだ。

 ただ、この法案の中身を聞くと、今の自民党支持の保守系の人たちはひっくり返ってしまうだろう。

『自民党が検討している「宗教法人基本法案」(仮称)の骨格が四日までに固まった。宗教団体の政治活動の「政教分離」に関する憲法二〇条の政府解釈を見直し、宗教団体の政党創設を禁じたほか、靖国神社への首相、閣僚の公式参拝も事実上、禁止している。また、「信者の脱会の自由」や「霊感商法の禁止」などの規定を盛り込んでいるのが特徴だ』(読売新聞1996年1月5日)

「靖国参拝」とともに引っ掛かるのは、「宗教団体の政党創設禁止」だろう。実はこの時、自民党は社会党、新党さきがけと連立を組んでいた。公明党は分裂して、その一部は小沢一郎氏率いる新進党と手を組んでいた。

 そういう経緯もあって、この時期の国会では亀井静香氏や島村宜伸氏らが厳しい公明・創価学会批判を繰り返していた。亀井氏にいたっては、池田大作名誉会長から公明党に指示があるのかなどを確認するため、池田氏の国会招致を請求して、学会員の皆さんから「仏敵」などと憎まれていたのだ。

 そんな公明党との「敵対関係」を考えれば、この自民党主導の「新法」は、たとえ靖国参拝などの箇所は削られても、何かしらの形で検討が続きそうだ。オウムの事件で社会問題化した「宗教被害者」の問題もそれなりにカバーされている印象だ。だが、そんな画期的な法案はあっさりと闇に葬り去られた。

 これに先駆けて推進をした宗教法改正が、大事なお客さまたちの「逆鱗」に触れてしまったからだ。わかりやすいのが、この法案の報道があった2カ月半後、岐阜であった参院補欠選挙だ。ここでは与党統一候補の大野つや子氏が当選したが、実はこの時に立正佼成会は推薦を見送っている。