変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、6月29日発売)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。同書から抜粋している本連載の書下ろし特別編をお届けする。

「なぜ日本企業は、時代遅れのジョブ型人事制度を今さら導入するのか」米国の経営者が疑問を抱く理由Photo: Adobe Stock

適所適材のジョブ型人事制度

 昨今話題のジョブ型人事制度とは「ジョブ(職務)に合う人材を採用する人事制度」のことです。人材を最適な職務に配置する適材適所のメンバーシップ型に対して、職務に合わせて人材を採用する適所適材とも言われています。

 私が20年ほど前に勤めていた米国企業では、組織がモジュール化されていて、職務もジョブディスクリプションという形で明確に定義されていました。専門性を持った人間が入社すれば、マニュアルを読むだけですぐに成果が出せる、いわゆるジョブ型人事制度の典型です。

何年も前に米国では、
ジョブ型人事制度は限界を迎えている

 トップが明確な方針を打ち出せば、現場はその枠組みの中で自身に課せられた役割を全うすればよいだけなので、トップダウンでの意思決定が主の組織に向いているのはジョブ型人事制度と言えます。しかし、各部署や各メンバーの役割が明確に定義されているため、他部署や他メンバーとの連携には適していません。私がいた米国企業でも、ジョブディスクリプションに定義された以外の仕事に積極的に取り組もうとする人はほとんどいませんでした。

 当時すでに、現場発のイノベーションや異業種とのコラボレーションなどが社内で課題となっていたため、ジョブ型人事制度は限界を迎えていると言われていました。その解消のために、複数の部門から人材を集めたイノベーション部門や戦略企画部門などが立ち上がっていました。

「日本企業への処方箋」など存在しない

 トップダウンの指示を忠実に遂行するのではなく、現場発のアイデア実現に向けたアジャイル開発手法に注目が集まったのも2000年初頭です。なお、米国で注目されたアジャイル開発手法ですが、その原型となったのは日本の経営学者である野中郁次郎先生が日本メーカーの製品開発手法の研究をもとに1986年に発表した論文です。

 米国の経営者から見ると、今になって日本企業がこぞってジョブ型人事制度を処方箋のように導入しているのが奇異に見えるのでしょう。

 しかし、ジョブ型人事制度のメリットやデメリットを理解した上で、自社が抱える課題を解決するために必要だと判断して導入するのであれば、もちろん何も問題はないはずです。

「アジャイル仕事術」の本質は、自社の抱える課題の解決策や方向性を考えるための構想力です。外部のシステム会社やコンサルティング会社を起用する前に、まずは自分たち自身で自社の課題に対する解決策や方向性を整理しましょう。ジョブ型人事制度やAI、DXなどは、必要に応じて正しく使えば効果を発揮しますが、すべての日本企業にとっての万能薬でないことは覚えておいてください。

アジャイル仕事術』では、働き方のバージョンアップをするための技術をたくさん紹介しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。