怒鳴る上司写真はイメージです Photo:PIXTA

部下の小さなミスひとつで、フロア全体に響くほどの大声で叱責する上司。そんな現場を見たことのある人は少なくないだろう。だが、心理分野の専門家によれば、そもそも職務上で部下を大声で怒鳴りつけるメリットは皆無だという。そもそもハラスメントが発生してしまう背景について、『〈叱る依存〉がとまらない』の著者・村中直人氏に聞いた。(清談社 田中 慧)

解決が難しくなりがちな
パワハラのグレーゾーン

 今春から中小企業のパワハラ相談窓口の設置が義務付けられるなど、近年、労働環境の改善に向けた動きが見られている。だが、2022年3月に実施された調査では、43.6%の人が過去1年間で何かしらのハラスメントを感じ、その6割は上司からの被害だったと回答しており、いまだにパワハラの根本解決は難しい状況にあるといえる()。

※出典=「2022年 ハラスメント実態調査」株式会社ライボによるインターネット調査

『〈叱る依存〉がとまらない』の著者である村中直人氏は、多様なハラスメントがはびこるなかでも、「難事例化するのは、何がパワハラに当たるかの線引きが難しい場合だ」と話す。

「そもそもパワハラとは、職務上の地位などの優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える行為のこと。ただ、この“業務の適正な範囲”というのが解決のネックになるケースがあります。たとえば、休日に部下をゴルフに連れていくのは、業務の範囲外なのでアウト。しかし、このゴルフが重要な取引先との接待となると、部下への負担を増やす行為であっても、“業務のため”という理由付けができてしまうのでグレーになります」

 部下への暴言についても同じ考え方ができる。何の脈略もなく、いきなり部下を人格否定するような言葉を吐けば、当然パワハラになる。だが、それが部下のミスを注意していて、勢い余った末での罵詈(ばり)雑言なら、業務との関連性が生じ「業務推進のために必要」と言い逃れが出来てしまうため、完全なパワハラと位置づけるのは難しいという。今のパワハラの定義に縛られているかぎり、根本的な解決は難しいといえるのだ。