「職場の雰囲気が悪い」「上下関係がうまくいかない」「チームの生産性が上がらない」。こうした組織の人間関係の問題を、心理学、脳科学、集団力学など世界最先端の研究で解き明かした本が『武器としての組織心理学』だ。著者は、福知山脱線事故直後のJR西日本や経営破綻直後のJALをはじめ、数多くの組織調査を現場で実施してきた立命館大学の山浦一保教授。20年以上におよぶ研究活動にもとづき、組織に蔓延する「妬み」「温度差」「不満」「権力」「不信感」といったネガティブな感情を解き明かした画期的な1冊である。本稿では、特別に本書から一部を抜粋・編集して紹介する。

武器としての組織心理学Photo:Adobe Stock

上司は部下をほめるべきか、叱るべきか?

 ほめると叱る─これら2つの対応は、家庭や学校現場、そして職場での対応について考えるとき、古くから扱われてきました。

 また、「ほめられて伸びるタイプです」と言う若者もすっかり市民権を得て、世の中でもすっかり、「ほめて育てるのが良い」という風潮になったように思います。

 組織心理学の研究でも非常に多くの知見が蓄積されてきたテーマの一つです。

 それらの研究を集めてメタ分析した結果によると、ネガティブなフィードバック(叱るなど)よりもポジティブなフィードバック(ほめるなど)の方が、モチベーションなど各種のポジティブな心理的・行動的な反応をもたらすと報告されています。[1]

 例えば、ポジティブなフィードバックを受けた人は、フィードバックの内容を「的確である」あるいは「役に立つ」と評価し、それを受け入れ、肯定的な自己イメージや自己効力感を高めます。

 また、組織に対する愛着を持ち、役割外の仕事や創造的な活動に積極的に取り組んで、会社を辞めようという気持ちは低いことなどが報告されています。

「ほめて人を育てるなんて理想論じゃない?」

 ところが、企業の現場やスポーツチームなどを見渡してみるとどうでしょう。

「ほめることは本当に良い対応なのか?」と問われることがあります。