「モノづくりのまち・東大阪」は生き残れるか、デザイナー集団のチャレンジとは

地域の企業がデザインでブランド力を高める取り組みが活発だ。まちづくりや地域活性化の観点から、地方自治体がデザイナーとの協業を支援する例も少なくない。東大阪市のデザインプロジェクト「HIGASHIOSAKA FACTORies(東大阪ファクトリーズ)」もその一つ。特筆すべきは、モノの形を作る「狭義のデザイン」と、仕組みそのものを構築する「広義のデザイン」に並行して取り組み、プロジェクトを継続性のあるものにしている点だ。プロジェクトディレクターとして企画全体を統括するヒラカワデザインスタジオ代表の平川真紀氏が、取り組みの特色と手応えを語る。

行政がデザインと創る未来

 大阪府東大阪市は、約6000に上る事業所が高密度に集積する世界でも屈指の「モノづくりのまち」として知られる。産業領域に偏りがないのが特色で、「歯ブラシから人工衛星まで作れないものはない」と言われるほど技術の幅が広い。モノづくりの歴史があるが故に定着してしまった昔ながらのイメージもあるが、企業を訪問しヒアリングを行うと実情は異なった印象を受ける。事業承継した2代目、3代目が専門分野を極め、世界有数の技術を誇る企業も数多く存在する。ほとんどが従業員数20人未満だが、小規模故の機動力を生かして多品種・少量・短納期の要求にフレキシブルに対応し、産業界のニーズに応え続けている。

 しかし、それは裏を返せば、景気や発注者の経営状況に左右されやすいということでもある。経営を安定させるために、新製品や新事業を開発したいと望む経営者も多いが、そのために必要な商品企画やマーケティングのリソースを社内に持つケースはまれだ。こうした現状を踏まえ、地域のブランド力向上を目指して東大阪市と共に立ち上げたパイロット事業が「HIGASHIOSAKA FACTORies」だ。第1期がスタートしたのは2019年度。市内のモノづくり企業4社を選定し、最先端のプロダクトデザイナーとの協業による、新事業や新製品の開発を推進する取り組みが始まった(図1)。

「モノづくりのまち・東大阪」は生き残れるか、デザイナー集団のチャレンジとは図1:第1期デザインプロジェクト(提供:HIGASHIOSAKA FACTORies)
FACTOR 01:大原電線株式会社 × 鈴木元/FACTOR 02:共和鋼業株式会社 × 倉元仁/FACTOR 03:株式会社仁張工作所 × 北川大輔/FACTOR 04:北勢工業株式会社 × 田渕智也
拡大画像表示

 このように紹介すると、モノの形を作る「狭義のデザイン」の取り組みだと思われるかもしれないが、それだけではない。このプロジェクトの根幹は「ビジネス全体の枠組み作り」にある。各社の事業開発とは別に、専門性の高いクリエイティブディレクターやアートディレクター、フォトグラファー、映像作家などで構成したクリエイティブチームが、プロジェクト全体の企画、運営、進行管理やPRを担い、地域のブランディングという「広義のデザイン」も強く推進する二段構えのスキームになっている。つまり、このプロジェクトの最大の特色は、「狭義のデザイン」と「広義のデザイン」が並行して走る仕組みを作ったことにある。