大企業が大手広告代理店に依頼して、巨費を投じて行うイメージ戦略――。「企業ブランディング」を、そのように捉えている中小企業の経営者は少なくない。しかし、それは誤解だ。企業のブランドデザインを数多く手掛けてきたヒロタデザインスタジオ代表、廣田尚子氏は、中小企業こそ企業ブランディングに取り組むべきだと語る。その最適な方法について解説する。
企業ブランディングは、中小企業にこそ有効
中小企業の経営者には、「企業ブランディングなんて、自分たちに関係ない」と思い込んでいる人も多い。ブランド戦略を「大企業が広告代理店や有名なアートディレクターに依頼し、ロゴマークを刷新するなどして、商品やサービスの価値を高め、他社と差別化する戦略」と認識しているのだ。確かに、そういう側面もある。しかし、それはブランディングのほんの概念や作業のほんの一部にすぎない。中小企業には中小企業にふさわしいブランディング戦略があるのだ。それが「企業活動そのものを対象にしたブランディング」だ。
企業経営においては、時代や世情を俯瞰し、変化を的確につかんで未来を展望する力が試される。ところが中小企業の場合、経営トップ自ら現場をマネジメントせざるを得ない局面が多く、しばしば自社の事業を俯瞰する余裕をなくしてしまう。すると、自社の強みや弱みを客観的に分析できないまま、場当たり的な発想で対策や施策を立てることになる。狭い業界に閉じているならなおのこと、外部から新たな視点や情報を取り入れられないまま、成長のチャンスをみすみす逃している企業が多いのではないだろうか。
だからこそ、経営状態や企業資産を見つめ直し、未来図を描く企業ブランディングが重要になる。ここにデザイナーが関与すれば、ユーザー視点に立った商品やサービスの企画・開発につながり、長く生き残れる企業を目指すことができる。企業ブランディングは、広告やマーケティングプロモーションに比べると即効性に欠ける、と二の足を踏む向きもあるだろう。しかし、この種のブランディングは、大企業より圧倒的に中小企業の方が効果を出しやすい。というのも、中小企業はおおむね事業ドメインが明確なのでブランドのコンセプトが設計しやすい。また、社員一人一人がブランディングにコミットしやすいため、全社に浸透させるのもスムーズだ。そのため、短期集中型の取り組みでも変化が実感できるのだ。
企業ブランディングは、顧客や取引先といった外部に対してだけではなく、内向きの効果も生みだす。つまり、インナーブランディングだ。自社のブランドの価値を理解した社員は誇りを持って仕事に取り組めるし、ブランディング活動を通じて知名度や評判が上がれば、自社の文化にフィットした優秀な人材を採用しやすくなる。すると社内に活気が生まれ、ますます成長の機運が高まっていく好循環が生まれるのだ。
企業が長い年月にわたって事業を持続させようとすれば、それを支える頑丈な地盤づくりが不可欠だ。そこで、より広く、より遠くを見ようとするデザイナーの力を借りて、一貫性のある事業を構想してみてはどうだろう。事業活動は、より安定し、持続可能なものになるはずだ。