――筆者のリチャード・カッツ氏は米カーネギー倫理国際関係協議会のシニアフェロー
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米国のインフレに関する過去数週間の朗報は、同国の株式・債券相場だけでなく、日本の円相場も押し上げた。11月3日~12月6日の間に、円の対ドル相場は1ドル=148円から137円に上昇した(数値が小さくなるほど円の価値は上がる)。これは偶然の一致ではない。米国と日本の金利差拡大は円への需要を減らし、日本から米国へ、より多くの資金を移動させる。金利差の縮小は逆の効果を持つ。米国の金利と円相場の上下動は、米国のインフレ抑制の進展ペースに連動する。
しかし、米国のインフレ率が通常の水準へと下がっても、円は以前よりもずっと弱い水準にとどまるだろう。日銀が集計している円の全貿易相手国通貨に対する「実質実効為替レート」は10月の段階で、半世紀ぶりの低水準となった。同レートは、日本と他の諸国の物価動向の違いを計算に入れたものであり、円の競争力をより正確に示す。この記録的な円安は、最近の金利変動の影響を超えた、より根本的な何かを反映している。円が下落しているのは日本経済が弱体化しているためである。
以前の日本は、何十年間にもわたって貿易黒字を計上してきた。しかし過去10年を見ると、1994~2012年と比べて円相場が30%下落しているにもかかわらず、日本の貿易収支は総じて赤字になっている。かつては品質面で競争力を持ち、無くてはならない革新的製品を生み出してきた日本企業は現在、輸出維持のため低価格を売りにしている。