インフレ・円安により、日本人が一斉に貧しくなったと痛感した2022年。今後の景気はどうなるのか? 資産を守り・増やすにはどうすれば良いのか? 稼ぐ力を上げるための自己投資は何をすれば良いのか? そんな不安を解決するための糸口を見いだすべく、『最新版 つみたてNISAはこの9本から選びなさい』(ダイヤモンド社)の著者で、つみたてでコツコツと資産をふやす長期投資を提言するセゾン投信代表取締役会長CEOの中野晴啓さんと、『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』(ダイヤモンド社)の著者で、長期厳選投資を専門とする農林中金バリューインベスメンツ常務取締役兼最高投資責任者の奥野一成さんのお2人に、資産運用とこれからのビジネスパーソンに必要な思考法をテーマに対談していただきました(対談実施日:2022年11月25日)。全6回にわたってお届けします。(構成/北野啓太郎、撮影/石郷友仁)。

【マネー緊急対談】2022年の円安・物価高ショックは、日本の未来には良い警鐘だった!Photo: Adobe Stock

2022年のインフレ・円安で、
日本人が気づかなくてはいけない警鐘とは?

【マネー緊急対談】2022年の円安・物価高ショックは、日本の未来には良い警鐘だった!セゾン投信代表取締役会長CEO中野晴啓さん(左)と農林中金バリューインベストメンツ常務取締役兼最高投資責任者(CIO)奥野一成さん

――このインフレ・円安基調は、当分続きそうな見通しでしょうか?

中野晴啓(以下、中野) 円安は続かないと思っています。150円をつけてから、意外と早く揺り戻しがきましたね。「戻るのは来年になってからかな」なんて思っていたんですけど。

奥野一成(以下、奥野) どこまで戻りますかね。

中野 奥野さんは、どのあたりまでの戻りをイメージされていますか。

奥野 125円ぐらいですかね。

中野 やっぱりそうですね。

奥野 これから100円とか80円の円高に向かうかというと、そんな時代じゃないですよね。長期的に見ると、むしろ150円で止まるのかとかですね。

中野 長期的にはそうですね。ひとつの可能性として想定しておく。円安に進んでいく構造上の時代の予兆かもしれない、という。

奥野 そうですね。

中野 今回、ヒステリックに円安に進み、わりかた短期的に戻ったのは、テクニカルにある程度、説明がつくので。ヒステリックに進んだ分だけは、ヒステリックに戻るというね。短期的なマーケットのあやかもしれないですね。

【マネー緊急対談】2022年の円安・物価高ショックは、日本の未来には良い警鐘だった!奥野一成(おくの・かずしげ)
投資信託「おおぶね」ファンドマネージャー、農林中金バリューインベストメンツ株式会社 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)
京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2007年より「長期厳選投資ファンド」の運用を始める。2014年から現職。日本における長期厳選投資のパイオニアであり、バフェット流の投資を行う数少ないファンドマネージャー。機関投資家向け投資において実績を積んだその運用哲学と手法をもとに個人向けにも「おおぶね」ファンドシリーズを展開している。著書に『ビジネスエリートになるための 教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』(以上、ダイヤモンド社)など。
投資信託「おおぶね」:https://www.nvic.co.jp/obune-series-lp202208農林中金バリューインベストメンツ株式会社:https://www.nvic.co.jp/
Twitter:https://twitter.com/okunokazushige
Voicy:https://voicy.jp/channel/2959

奥野 この国の置かれている状況、生産性の低さ、みんなで何もしない空気とか、それらを踏まえるともう一度、後進国化するリスクがあると思います。今回の急激な円安は「30数年ぶりの円安」などと騒がれましたが、これは日本が後進国だった時代から円高になって、それを30年間なんとか持ちこたえたということ。今後は、もしかしたら先進国から脱落するかもしれない

中野 そうなんですよね。

奥野 そういう状況になるかもしれないという警鐘を、今回の1ドル150円が鳴らしてくれた。その警鐘にちゃんと気がつかないと、取り返しがつかないことになってしまいます。

中野 おっしゃるとおり、いい警鐘ですね。アベノミクス時代では政策的に円安に向かう流れをとってきましたが、「自分たちが意図せざるところで自国通貨が安くなっていくことがある。それは、国民生活者にとって不幸を呼ぶ事象になるんだ」ということを、改めて認識できたのではないでしょうか。

お財布の円を守るのではなく、
大事なのは購買力を守ること

奥野 急な円安により、購買力がどんどん削られたわけですよね。とりわけこの国は資源が乏しく、あらゆるものが輸入で成り立っているので、今まで以上の円を出さなきゃ買えなくなった。もちろん海外旅行の際は、円安になった分は減価するので買えるものが減ってしまう。

 これはよくよく考えないといけなくて、たとえば2000万円持っているとして、それを後生大事に抱えているのはどういう意味なのかを意識しないといけない。今回の円安は、円の価値を考える良いきっかけになったと思います。「この2000万円の購買力を維持するにはどうすれば良いのか?」と。

中野 奥野さんがおっしゃるとおり、これだけ急激な円安を経験すると、購買力の低下を実感しますよね。1円、2円ずつゆっくり動いていくと気づかないので、今回は全ての人たちが3割も貧しくなったことを実感できて、逆説的に言えば良かったのかなと。「家族でハワイ旅行へ行ったらすごくお金がかかった」「ニューヨークで気軽にコーヒーが飲めない」なんて、自分たちの通貨の価値が下がっているのを実感した声がいろいろと上がっていますね。

奥野 「大事なのは預金・貯金で円を守ることではなく、購買力を守ることなんだ」という本質に、今回はたぶん気づけた。だから警鐘だ、ということですね。そこでやらなきゃいけないのは投資です。それはお金の投資もさることながら、やっぱり稼ぐ力を自分自身がつくらないといけない。「稼ぐ力を持った人たちが集まると、稼ぐ力を持った企業ができる」、ということだと思うんです。いずれにしても購買力を守るためには、自己投資と企業への投資の両方が必要でしょう。

【マネー緊急対談】2022年の円安・物価高ショックは、日本の未来には良い警鐘だった!中野晴啓(なかの・はるひろ)
セゾン投信代表取締役会長CEO、一般社団法人投資信託協会副会長、公益財団法人セゾン文化財団理事
1987年明治大学商学部卒業、クレディセゾン入社。2006年セゾン投信を設立。2020年6月より現職。つみたてで、コツコツと資産をふやす長期投資を提言。国際分散型投資信託2本を15年以上運用し、個人の長期資産形成を支えている。客観的な定量評価を行う「R&Iファンド大賞」最優秀ファンド賞を9年連続受賞。口座開設数16万人、預かり資産5000億円を突破。主な著書に『最新版 投資信託はこの9本から選びなさい』『投資信託はこうして買いなさい』『最新版 つみたてNISAはこの9本から選びなさい』(以上、ダイヤモンド社)他多数。
セゾン投信株式会社:https://www.saison-am.co.jp/

中野 その意識、ずっと欠けていたんですよね。サラリーマンとしてリアクティブ(受け身)に仕事をすることが、成熟した社会におけるひとつの生き方になっていたので。でもよく考えると、ひとつの国の国富を生み出すのは、その国の国民生活者。その人達が付加価値を自ら生み出すことによって、結果として一人ひとりが新たな富を生み出すことになる。これが給与などを生み出すキャッシュフローになり、その集積がGDPになってくる。

奥野 そうですね。

中野 国が「今年より来年」「来年より再来年」と、少しずつでも大きくなっていく循環がないと、奥野さんがおっしゃるとおり、本当に後進国に逆戻りしてしまう。横ばいだったとしても、その他の大半の国は、自分たちのキャッシュフローを毎年生み出せるよう社会構造をきちんと構築しているわけですから。そうすると、少しずつ大きくなっていく国に対して自分達が変わらなければ、相対的に貧しい国になっていってしまう

 これが振り返ってみれば平成30年間の日本社会そのものだった、ということに改めて多くの人が気づいている瞬間じゃないですかね。「自分たちの国を豊かにしていくのは、結局、自分たち一人ひとりの努力でしかできないんだ」というのが、今の奥野さんのお話の根幹だと感じましたね。

 

 

 

一億総依存社会は、
子や孫の懐に手を突っ込んでお金をばらまく

【マネー緊急対談】2022年の円安・物価高ショックは、日本の未来には良い警鐘だった!ビジネスエリートになるための投資家の思考法』奥野一成著、定価:1650円、発行年月:2022年9月、判型/造本:46並製、272ページ
ベストセラーとなった『ビジネスエリートになるための教養としての投資』の続編。「投資家の思考法」のエッセンスは、ビジネスの本質を見抜き、付加価値を上げるためのアプローチを見つけること。投資家のみならず、全ビジネスパーソンが、ビジネスエリートになるために持つべき重要な思考の武器である。

奥野 そうですね。国ガー、岸田ガー、政治ガーではなく、大事なのは「あなた」です。自著『ビジネスエリートになるための 投資家の思考法』の最後にも書いたのですが、やっぱり日本は「一億総依存社会」なんですよね。自立した個人という考え方の話をすると、「自己責任ですか?」と反論が来そうですが、国はちゃんと機能しているんですよ。事情により働けなくなった方には、所得を再分配できている。

中野 セーフティーネットのミッションですよね。

奥野 ええ。国というのはそのための仕組みでしかないんですよ。国が何かをやってくれるわけじゃない。健全で普通に働ける人のために何かをやってくれる組織ではないんです。老いた人に対して若い人が所得の再分配する、働けない人に対して働ける人が所得を再分配する、貧しい人に対して富んだ人が再分配する。国は富を製造する主体ではないんですよね。

 そんな富を製造する主体じゃない国に何か頼むと、「じゃあ国債発行しましょう!」みたいな話になって、どんどんどんどんジャブジャブと……。

中野 喜んでやっちゃいますよね。今の政治は大衆迎合ですから。

奥野 それをすると何が起こるかと言うと、自分の子や孫の懐に手を突っ込んで、今の人達に撒いているだけの世界になってしまう。基本的に何も価値を生んでない中で、そこに摩擦があるとするとマイナスなんですよね。それでどんどん国債を発行するから、円の価値が下がる。当たり前のことが、当たり前に起こっている。

中野 自爆の円安でもありますね。日本と外国の金利差の問題は、もちろんあるんでしょうけど。それだけで終わらしちゃいけない事象ですよ、今起きていることは。

つづく